スキップしてメイン コンテンツに移動

『スタンフォード監獄実験』再び映画化、3作のトレイラーを見比べてみる

心理学史上もっとも有名な実験の一つである「スタンフォード監獄実験」が再び映画化された。三作のトレイラーを見比べて、「悪の心理学」を学ぶ。被験者へのその後の影響は?

スタンフォード監獄実験

「スタンフォード監獄実験」とは、スタンフォード大学で1971年にフィリップ・ジンバルドーの指揮のもとに行なわれた心理学実験である。普通の人々が、ある役割を与えられると、それに合わせて行動も変化するということを証明しようとして実施された。スタンフォード大学の地下実験室が監獄に改造され、新聞広告等で21人の被験者が集められた。そして、11人を看守役に、10人を受刑者役に分け、2週間に渡って、それぞれの役割を演じてもらおうという計画だった。実験が始まると、ジンバルドーが当初想定していたこと以上のことが起こったのだった。いったい何が起こったのだろう?



ジンバルドーはよりリアルな状況で実験を行なうために、パトカーを用いて囚人を逮捕して指紋を採取し、脱衣させてシラミ駆除剤まで散布したという。そして、番号のついたスモックを着用させた。囚人役はこれ以降、名前ではなく番号で呼ばれることになる。足首には鎖まで巻かれていた。

看守役は警棒を持ち、表情が読まれないようにサングラスを着用した。

時間が経過すると、ジンバルドーが期待したように、看守役はより看守らしく、囚人役はより囚人らしくふるまうようになっていった。看守役は自ら囚人役に罰則を与えはじめ、反抗的な囚人を独房に監禁したり、バケツへの排便を強要するようになった。

これはかなわないと囚人役のひとりが実験の中止を求めたが、ジンバルドーは実験を続行した。精神的に錯乱する囚人が出たり、看守が囚人に暴力をふるうようなことまで起こってきたため、経過を目撃した牧師が家族に連絡し、弁護士を通じて実験の中止が要求された。当初2週間の予定だった実験は6日間で中止されたという。

ジンバルドー自身が、実験がつくり出した異様な雰囲気に飲み込まれてしまい、冷静に状況を判断することができなかったのだと後に語っている。

この実験は、人間の良心や道徳心というものが、状況によって容易く変質してしまうということを証明したという意味で、人々に大きな衝撃を与えた。

映画になった心理学実験

これまで『es[エス]』 (2001)、『エクスペリメント』(2010)などの映画が製作されている。後者は、esのリメイク版だったと思う。

今回で、たぶん3度目の映画化だ。


 The Stanford Prison Experiment Trailer 1 (2015) Ezra Miller Thriller Movie HD [Official Trailer]
公式サイト

ついでにこれまでの2作のトレイラーも観てみよう。

一つ目は、『es[エス]』(原題は、"Das Experiment")。『エス』というのは日本語のタイトルだが、これは精神分析用語で、無意識下の欲求や本能的エネルギーを表す言葉だ。



続いては、2010年にリメイクされた『The Experiment』。

ジンバルドーと悪の心理学

次の動画はTEDでジンバルドー自身がスタンフォード監獄実験と「ルシファー効果」と彼が名づけた現象について語っている。「悪の心理学」というタイトル。イラクのアブグレイブ刑務所で行われていたという虐待などにも触れられている。



スタンフォード監獄実験:40年後

追記。
映画公開に伴って、特集記事などがちらほら目に入ってくる。

The Stanford Prison Experiment A Closer Look at Zimbardo's Infamous Prison Study

こちらには、実験から40年経ってのふりかえりが。

2011年に「Stanford Alumni Magazine」がスタンフォード監獄実験の40周年特集を組んだそうで、ジンバルドーや、実験への参加者へのインタビューが行なわれた。

囚人役として参加していたリチャード・ヤッコさんは、現在、公立校の教師をしている。彼は実験についてこのような洞察を述べた。
この実験で興味深いと思うのは、もし社会があなたに何かの役割を割り振ったとしたら、その役割性格を当たり前のものと思い込むのかどうかってことなんだ。私はオークランド市内の高校で教えている。子どもたちはこのような実験に行って恐ろしい出来事を見る必要なんてない。けれど、同僚や私をがっかりさせるのは、せっかく子どもたちにたくさんの素晴らしい機会があるのに、私たちがサポートしているのに、なぜ彼らはそれを利用しないんだろうってことだ。どうして学校を中退するんだろう? 準備もせずに学校に来るんだろう? 監獄実験がその理由を示してくれていると思う。彼らは、社会によって与えられた役割に落っこちてしまったんだ。
スタンフォード監獄実験に参加したことは、私が生徒たちと共有できることだ。この実験は私が10代のころの人生の中の一週間にすぎないけれど、今でもここにある。40年経った今でも、この実験は社会に十分なインパクトを与える何かを持っているし、興味深い物だ。人生を決めるような決定的な瞬間になるようなことに踏み込もうとしているってことは、そのときには決して分からないものなんだ。


ルシファー・エフェクト ふつうの人が悪魔に変わるとき

「こういう話は昔のことだろう」と思われるかもしれない。
けれども、同じようなことは現代でも意外と身近なところで行なわれている。
次の記事を参照してほしい。
服従から感染へ:Facebookの感情操作実験と「スタンフォード監獄実験」「ミルグラムの服従実験」




コメント

このブログの人気の投稿

果物に例える恋愛心理テスト「フルーツバスケット」で本音がわかる?

簡単な恋愛心理テスト「フルーツバスケット」 「フルーツバスケット」という簡単でおもしろい心理テストのことを聞きました。 「心理テスト」というよりは「心理ゲーム」と呼んだ方がいいですね。 こんなゲームです。 【問】 あなたの目の前に、フルーツバスケットがあります。バスケットには、リンゴ、バナナ、ぶどう、みかん、イチゴ、キウイが入っています。5種類のフルーツを、それぞれ身近な異性にあてはめてみてください。 リンゴ= バナナ= ぶどう= みかん= イチゴ= キウイ= さて、いかがでしょう? 何人かにあらかじめ聞いておくと、後で比べられて楽しいです。

数唱と語音整列の乖離は何を意味しているか?

WAISの数唱と語音整列について、この二つに乖離があったらどう解釈されるんだろうかと思って調べてみたメモ。どちらも作動記憶(ワーキングメモリー)に含まれる下位検査だが、いくらか性質が違う。両者の相関は、中程度くらいだったと思う。 数唱 vs 語音整列 Digit span versus letter number sequencing とある海外の掲示板(?)でのやりとり。 一方が他方よりも高得点だった場合、どんな風に説明できるかな? どっちも順番に配列することが含まれているし、ほとんどの人が順序を操作するために聴覚的記憶を使ってると思う。けど、4点以上の乖離(discrepancy)があった場合は? 実施したばかりのアセスメントを詳しく考えてみると、言葉の受容と表出が明らかに難しいケースだったけど、視空間スキルと処理速度はまったく問題なく保たれていた。-Miriam という問題提起に対するスレッドのようだ。 私も以前に何度か同じようなパターンに出会ったことがあって似たようなことを考えたことがあるけど、ぜんぜん専門外だったから。あなたももう考えてるだろうけど、語音整列はたぶんより複雑な課題だと思う。というのも、数唱のように単に数字を扱うんじゃなくって、(文字と数字という)二種類の情報を使ってそれを切り替えながら作業しなきゃいけないから。被験者が教示を理解して、すべてをすっかり頭に入れることができたという手応えはありましたか? これ(語音整列)を実行するにはいくつかの操作が必要だし、呈示されたものすべてを受け取るには言語受容スキルが特に障壁となるかもしれません。他の下位検査にもこの仮説が当てはまるならば意味をなさないかもしれませんが・・・もっと知識のある人ならいい意見が出せるかも。-Butterfly22 私も同じように考えていました。数唱よりも語音整列の方がいいスコアを示しているような同様のアセスメント事例がおかしいのはなんでかなって。-Miriam 数唱が高くて語音整列が低い場合は、並べ替えなどの操作が入ると難しいのかなと推測できるけど、逆の場合はなんだろう。 数唱は基本的にはワーキングメモリーのタスクだけど、語音整列は、上の人が言ってるみたいに、もっと複雑だ。より心的に柔軟でないといけないし、情報の保存/再生の能力だけでなくて...

イヤーワームになる曲トップ9、そして対処法(頭から離れない曲)

止まらないメロディーの正体とは?イヤーワーム現象を科学する 1. イヤーワームとは?耳に残る音楽の正体 頭の中で特定の曲が何度も繰り返される現象を「イヤーワーム」と呼びます(ディラン効果とも。ボブ・ディランの「風に吹かれて」もイヤーワームが生じやすい曲として知られています)。この言葉は、英語の「earworm(耳の虫)」に由来し、まるで耳に虫が入り込んで音楽を流しているかのような感覚にたとえられています。イヤーワームは、特に集中が必要な時や眠る前に起こりやすく、勉強中や仕事中に困った経験がある人も多いでしょう。 頭のなかである曲が延々と流れ続けて止まらなくなる現象を「イヤーワーム」と言います。 「耳の虫」という意味で、まるで耳に虫がもぐりこんで音楽を流しているみたいに体験されることからそう呼ばれています。 強迫性障害や統合失調症の症状として見られることもありますし、健康な人だってしばしば体験します。脳のバグみたいなもんでしょうか。勉強中や仕事中など、何かに集中しなくてはならないときに、イヤーワームが気になって仕方がないということもあります。受験生でイヤーワームに取り憑かれて困っているという人の話を聞いたことがあります。確かに困りますよね。 Psychologists Identify Key Characteristics Of Earworms 「心理学者たちが見つけたイヤーワームの本質的特徴」 という記事が、アメリカ心理学会のサイトに掲載されていました。 イヤーワームを生じさせやすい曲として、たとえばレディ・ガガのBad Romanceが挙げられていました。 2. イヤーワームが起こりやすい人とその原因 イヤーワームは健康な人にも頻繁に起こりますが、強迫性障害や統合失調症などの精神疾患と関連する場合もあります。脳が「バグ」を起こしたかのように、無意識にメロディーがリピートされてしまうのです。心理学的には、音楽の反復やリズムが脳に影響を及ぼし、メロディーが意識に残り続けることが指摘されています​ Hiroshima University Repository 。 3. 科学的に解明されたイヤーワームを引き起こす音楽の特徴 アメリカ心理学会の研究によると、イヤーワームを引き起こしやすい曲にはいくつかの共通点があります。それは以下の3...