スキップしてメイン コンテンツに移動

パニック障害の心理療法の改善率を比較すると? 認知行動療法と精神力動的心理療法

Medscape Medical News > Psychiatry Psychotherapies for Panic Disorder: Which Is Best?

パニック障害や不安障害の治療の際、(妊娠などの理由で)薬なしで治したい、とか減薬したいというときに、心理療法やカウンセリングが選択肢にあがることがあるが、果たしてどのようなアプローチが効果的なのだろうか?

パニック障害の心理療法としてはこれまで認知行動療法(CBT)が効果があることが確かめられてきたけれど、新しい研究では精神力動的心理療法(精神分析的な心理療法ということ)も有望なことを示している、という記事。



パニック障害の心理療法を比較する

比較されたのは、
  • 認知行動療法(CBT)
  • パニック焦点型精神力動的心理療法(PFPP)←名前長過ぎ
  • 応用リラクセーショントレーニング(ART)
の3つのアプローチ。
CBTは一貫していいパフォーマンスだったが、PFPPもまた効果を示したという。
Martin Duggan

研究をリードしたBarbara Milrod博士(ワイル・コーネル医科大学、精神医学教室)は「どの治療でもパニック障害の患者は回復しましたが、精神力動的心理療法が有望であることが明らかになったのは注目すべきことでした」と述べている。

Journal of Clinical Psychiatry誌に論文が掲載されてます。
Psychotherapies for Panic Disorder: A Tale of Two Sites

200人のパニック障害の患者(18歳から70歳)をランダムにCBT、ART、PFPPにふりわけて治療成績を Panic Disorder Severity Scale (PDSS) という尺度を用いて比較したという研究。
CBTは81人、PFPPは80人、ARTは39人の患者が割り当てられ、週に2回、45分から50分のセッションを12〜14週に渡って実施した。

ドロップアウト率と効果

Attrition rates(ドロップアウトの割合)は、ARTは41%、CBTは25%、PFPPは22%で、最も症状の重い患者ほどARTでドロップアウトしやすかったんだそうだ。

「トレーニング」と名前がついているものは、それだけ本人に負担が大きいということなんでしょうか。関係ないけれど、ライザップのドロップアウト率はどれくらいなのかとちょっと気になった。

ええと、アブストラクトを読むと、この調査は、ワイル・コーネル医科大学と、ペンシルバニア大学の二カ所で実施されたが、場所によって結果にいくらか違いがあったということのようだ。タイトルそういう意味か。

コーネル医科大学では、3つのアプローチの回復の度合いには違いは見られなかった。

一方で、ペンシルバニア大学では、ARTとCBTがPFPPよりもいい成績を示したという。ペンシルバニアの患者の方が、より重症度が高かったとのことで、このあたりが影響しているらしい。

結論としては、どのアプローチもパニック障害の患者の改善に役に立ったが、より重症な人はARTはドロップアウト率が高く、CBTの成績がよろしい。PFPPもなかなか有望である、ということのようだ。

パニック焦点型精神力動的心理療法

パニック焦点型精神力動的心理療法(PFPP)
というのがどんなものかよく知らなかったので、調べてみたら、最近、本の邦訳が出たばかりなんですね。

パニックと不安症への精神力動的心理療法』金剛出版、2015年

金剛出版のサイトには、
本書で紹介するパニック焦点型力動的心理療法は、不安症に対する単一の治療法としての有効性が実証された、精神分析的基礎をもつ初めての心理療法である。不安症患者は薬物療法よりも心理療法を好む傾向が強い。その多くは、出産適齢期の女性であるため、精神薬理的介入への不安が付随していることが挙げられる。本書ではパニック焦点型力動的心理療法の重要性から、治療法、さらにはこの治療法が適用可能な領域まで論旨を拡げていく。
と紹介されている。牛島先生の推薦文も掲載されているので、興味深い箇所を引用しておきたい。
留意しておくべきは,精神疾患が人間存在の魔物だということである。認知行動療法が如何に完成品であろうとも,所詮,人智のなすところで,限界のあることを忘れてはなたない。私は,最初からCBTにも反省期がやって来るとは考えていた。わが国ではまだ勢いは衰えないが,この道での先進国である米国では,すべてのケースがCBTによって必ずしもうまくいかないという研究結果が出はじめたという。
ということだそうです。「PFPPが精神分析的概念を採用し,その実践に活用しているとはいえ,非常に専門化した精神分析療法とは一線を画している」ことには留意が必要とされながらも、治療の幅を広げていく可能性が評価されている。

コメント

このブログの人気の投稿

果物に例える恋愛心理テスト「フルーツバスケット」で本音がわかる?

簡単な恋愛心理テスト「フルーツバスケット」 「フルーツバスケット」という簡単でおもしろい心理テストのことを聞きました。 「心理テスト」というよりは「心理ゲーム」と呼んだ方がいいですね。 こんなゲームです。 【問】 あなたの目の前に、フルーツバスケットがあります。バスケットには、リンゴ、バナナ、ぶどう、みかん、イチゴ、キウイが入っています。5種類のフルーツを、それぞれ身近な異性にあてはめてみてください。 リンゴ= バナナ= ぶどう= みかん= イチゴ= キウイ= さて、いかがでしょう? 何人かにあらかじめ聞いておくと、後で比べられて楽しいです。

数唱と語音整列の乖離は何を意味しているか?

WAISの数唱と語音整列について、この二つに乖離があったらどう解釈されるんだろうかと思って調べてみたメモ。どちらも作動記憶(ワーキングメモリー)に含まれる下位検査だが、いくらか性質が違う。両者の相関は、中程度くらいだったと思う。 数唱 vs 語音整列 Digit span versus letter number sequencing とある海外の掲示板(?)でのやりとり。 一方が他方よりも高得点だった場合、どんな風に説明できるかな? どっちも順番に配列することが含まれているし、ほとんどの人が順序を操作するために聴覚的記憶を使ってると思う。けど、4点以上の乖離(discrepancy)があった場合は? 実施したばかりのアセスメントを詳しく考えてみると、言葉の受容と表出が明らかに難しいケースだったけど、視空間スキルと処理速度はまったく問題なく保たれていた。-Miriam という問題提起に対するスレッドのようだ。 私も以前に何度か同じようなパターンに出会ったことがあって似たようなことを考えたことがあるけど、ぜんぜん専門外だったから。あなたももう考えてるだろうけど、語音整列はたぶんより複雑な課題だと思う。というのも、数唱のように単に数字を扱うんじゃなくって、(文字と数字という)二種類の情報を使ってそれを切り替えながら作業しなきゃいけないから。被験者が教示を理解して、すべてをすっかり頭に入れることができたという手応えはありましたか? これ(語音整列)を実行するにはいくつかの操作が必要だし、呈示されたものすべてを受け取るには言語受容スキルが特に障壁となるかもしれません。他の下位検査にもこの仮説が当てはまるならば意味をなさないかもしれませんが・・・もっと知識のある人ならいい意見が出せるかも。-Butterfly22 私も同じように考えていました。数唱よりも語音整列の方がいいスコアを示しているような同様のアセスメント事例がおかしいのはなんでかなって。-Miriam 数唱が高くて語音整列が低い場合は、並べ替えなどの操作が入ると難しいのかなと推測できるけど、逆の場合はなんだろう。 数唱は基本的にはワーキングメモリーのタスクだけど、語音整列は、上の人が言ってるみたいに、もっと複雑だ。より心的に柔軟でないといけないし、情報の保存/再生の能力だけでなくて...

イヤーワームになる曲トップ9、そして対処法(頭から離れない曲)

止まらないメロディーの正体とは?イヤーワーム現象を科学する 1. イヤーワームとは?耳に残る音楽の正体 頭の中で特定の曲が何度も繰り返される現象を「イヤーワーム」と呼びます(ディラン効果とも。ボブ・ディランの「風に吹かれて」もイヤーワームが生じやすい曲として知られています)。この言葉は、英語の「earworm(耳の虫)」に由来し、まるで耳に虫が入り込んで音楽を流しているかのような感覚にたとえられています。イヤーワームは、特に集中が必要な時や眠る前に起こりやすく、勉強中や仕事中に困った経験がある人も多いでしょう。 頭のなかである曲が延々と流れ続けて止まらなくなる現象を「イヤーワーム」と言います。 「耳の虫」という意味で、まるで耳に虫がもぐりこんで音楽を流しているみたいに体験されることからそう呼ばれています。 強迫性障害や統合失調症の症状として見られることもありますし、健康な人だってしばしば体験します。脳のバグみたいなもんでしょうか。勉強中や仕事中など、何かに集中しなくてはならないときに、イヤーワームが気になって仕方がないということもあります。受験生でイヤーワームに取り憑かれて困っているという人の話を聞いたことがあります。確かに困りますよね。 Psychologists Identify Key Characteristics Of Earworms 「心理学者たちが見つけたイヤーワームの本質的特徴」 という記事が、アメリカ心理学会のサイトに掲載されていました。 イヤーワームを生じさせやすい曲として、たとえばレディ・ガガのBad Romanceが挙げられていました。 2. イヤーワームが起こりやすい人とその原因 イヤーワームは健康な人にも頻繁に起こりますが、強迫性障害や統合失調症などの精神疾患と関連する場合もあります。脳が「バグ」を起こしたかのように、無意識にメロディーがリピートされてしまうのです。心理学的には、音楽の反復やリズムが脳に影響を及ぼし、メロディーが意識に残り続けることが指摘されています​ Hiroshima University Repository 。 3. 科学的に解明されたイヤーワームを引き起こす音楽の特徴 アメリカ心理学会の研究によると、イヤーワームを引き起こしやすい曲にはいくつかの共通点があります。それは以下の3...