『PTSDとトラウマの心理療法-心身統合アプローチの理論と実践』(バベット・ロスチャイルド)
バベット・ロスチャイルド『PTSDとトラウマの心理療法-心身統合アプローチの理論と実践』久保隆司訳、創元社、2009年
を読んだ。絶版らしいのはもったいないので、ぜひ再販してほしい。
トラウマやPTSDに関連する症状は、大きく次の3つに分けることができる。
(1)と(2)は、身体と深く結びついた症状だといえる。トラウマは心理生理的な体験であり、「増大した覚醒(arousal)」が持続するのがその症状の中心にある。心理的な支援においては、生理的なレベルの過覚醒を抑えつつ、感覚表現が統合される必要がある。
著者は、「安全なトラウマ療法のための10の基礎」(p.132-133)として次の原則を挙げている。
を読んだ。絶版らしいのはもったいないので、ぜひ再販してほしい。
PTSD(外傷後ストレス障害)やトラウマと呼ばれる症状が、心因性だけではなく身体の症状ももつ病気であることは、現場の臨床家にはよく知られている事実である。しかしこれまで、伝統的な言葉による心理療法と身体に働きかける心理療法の二つを統合するようなアプローチは、ほとんど紹介されてこなかった。本書は、そうした心身両面からのアプローチと、さらに理論と臨床実践を巧みに結びつけることで、トラウマを抱えるクライエントを援助するためのヒントを数多く提供する。伝統的な心理療法は、Talking cure(お話療法)と呼ばれていたことからもわかるように、言語化することや知ることに重点が置かれていた。しかし、トラウマに関連する症状は、なかなか言語化するのが難しいばかりか、言葉にしようとするとフラッシュバックの引き金となって、トラウマの再体験につながってしまうことさえある。
トラウマやPTSDに関連する症状は、大きく次の3つに分けることができる。
(1)多様な感覚器官における出来事の再体験(flashback)
(2)トラウマを思い出させるものの回避
(3)自律神経系における慢性的な過覚醒状態
(1)と(2)は、身体と深く結びついた症状だといえる。トラウマは心理生理的な体験であり、「増大した覚醒(arousal)」が持続するのがその症状の中心にある。心理的な支援においては、生理的なレベルの過覚醒を抑えつつ、感覚表現が統合される必要がある。
トラウマを抱えたクライエントにとって、これらの身体的感覚がまさに制御できない非常に強い感情を生み出している混乱の核であるとするならば、私たちの療法は、クライエントが自分自身の身体から逃げ出すことなくそこに留まり、自らの身体感覚を理解できるよう手助けするものでなければなりません。べセル・ヴァンダーコーク未解決のトラウマは、自律神経系の過覚醒によって心身に大きな圧力がかかった状態に例えられる。蒸気でいっぱいの圧力釜のようなものだ。下手に開けると爆発してしまう。少しずつ、空気を抜いて圧力を下げていかなくてはいけない。そのために重要なのは、トラウマの記憶にアクセスすることよりも(それは圧力釜の蓋を開けるようなものだ)、ブレーキをかけて、圧力を手に負える範囲までに軽減する工夫だ。
著者は、「安全なトラウマ療法のための10の基礎」(p.132-133)として次の原則を挙げている。
- 最初にして最も大切なことー治療の内外においてクライエントの安全性を確立せよ。
- セラピストとクライエントの間のよい関係を伸ばせ。それは(たとえ、数ヶ月、数年かかろうとも)トラウマの記憶に取り組んだり、またどのような技法を適用する場合でも前提となる条件である。
- クライエントとセラピストは「アクセル」を使う以前に「ブレーキ」の扱いに自信がなければならない。
- クライエントの内的および外的なリソースを特定し、そのリソースの上に治療を構築せよ。
- 心的防衛をリソースと見なせ。コーピング戦略/心的防衛を決して「取り除く」な。かわりにもっと多くの選択肢をつくれ。
- トラウマの仕組みを「圧力釜」と見なせ。常に圧力を減じるために働いているのであり、決して増やすためではない。
- クライエントが療法に適応するのを期待するのではなく、療法をクライエントに合わせなさい。そのためには、セラピストがいくつかの理論や治療モデルに通じている必要がある。
- トラウマとPTSDに関する心理学と生理学双方の理論について幅広い知識を持て。そうすることで間違いを減らし、セラピストが個々のクライエントの必要性に応じた技法をつくり出すことが可能になる。
- クライエントは各人が違うと考えよ。従順的でないとか介入に失敗したとかいって、クライエントを判断するな。一つの介入が、二人のクライエントに同じ結果をもたらすなどと、決して期待しないように。
- セラピストは、時には(治療の全コースの間さえも)どのような技法であってもすべて脇において、ただクライエントと話をする覚悟がなければならない。
同じ著者のもうひとつの本、
でも、「ときにはすべての技法を脇においておく覚悟」や「常識」が強調されていた。日本でも、トラウマ療法家は多彩な技法やアプローチをもっている人が多いが、なかには「飛び道具に頼っている」という印象を与える人もいる。専門家として必要な技術は備えておなかきゃいけないが、技法だけが浮いてしまうとよくないのは、どんな分野でもいっしょだと思う。
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