某所の書庫にて発見。

ローエンフェルド『子どもの絵:両親と先生への手引き』勝見勝訳、白揚社、昭和31年

"Your Child and his Art"(1954)


表題の通り子どもの絵についての本。著者のローエンフェルド博士はウィーン大学で美術と教育に関する研究をしていたという。古めかしいけれど(埃っぽいのは書庫の管理のせいですが)、具体的な事例がたくさん掲載されていて読みやすかった。最初の方からいくつか抜き書きしてみる。
ジョニーはいつもメリーをいじめるので、メリーはきらいです。そこで、色や場所の好悪によって、ジョニーがきらいだということを、絵にあらわします。ジョニーはメリーより強いので、メリーは、ジョニーをきらっていることを、直接にはあらわせませんが、絵ではそれができます。メリーは、ほかではできないようなことを、たくさん、絵でやっています。絵を描いたあと、メリーはさっぱりしますが、それは、私たちが、仲の好い友だちと、重要なことについて相談したあとに気持ちよく感ずるのと、おなじことです。pp.29-30

メリーはどんな絵を描いたんでしょうね。面と向かって文句は言えなくても、「ジョニーがワニに食べられちゃう絵」 を描いてすっきりすることはできるわけだ。
ヴァージニアは、とても神経質です。口をききたがりません。絵をかいても、ちっともそれが両親に気に入らないので、絵もかきません。そして部屋にひとりきりでいること、ことに夜寝つくまえにひとりきりでいるのを、こわがります。それは長い間つづきましたが、理解のある先生に助けられて、ある日自分の苦しみを絵にあらわすことができるようになったらその不安は消えてしまいました。p.30
絵に表現することができると、不安や怖さの圧倒するような感じは、ずいぶん減るのだろう。なんといっても、画用紙の枠ぐみの中におさまってしまうのだから。受身的な不安体験は、遊びのなかで能動的にくりかえされることで、飼いならされるのだろう。
創造することは、あなたのお子さんにとって、なぜ重要か? それはあなたのお子さんが、メリーと同じように幸福でのびのびとした子どもになり、ヴァージニアのように神経質な束縛された子どもにならないために、そして、メリーのように自分自身、および、周囲のものについて考えたり、感じたりできるようになるために重要です。(…)あなたのお子さんは、自分をとりまく世界を、発見したり探検したりして、のびのびと自主的にたのしむようになります。そして何よりも、自分の足で恐れることもなく立っているということ、幸福な人間であることに、気づくようになるでしょう。p.33
描くこと、創造-想像することは、自分自身や周りのものごとを感じたり、のびのびと楽しんで探検することを促進する。子どもでも大人でも、世界に(不安ではなくて)好奇心をもって踏み出せるということは、とてもハッピーなことなのだ。