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恐怖を克服するための戦術的呼吸と事後報告会

グロスマンとクリステンセンによる『「戦争」の心理学:人間における戦闘のメカニズム』から、「戦術的呼吸法と事後報告会」に関する覚書。

「戦術的呼吸法、事後報告会のメカニズム―記憶と感情を切り離す」という章(第二十一章)。


本書で何度も言及されている「戦術的呼吸法(Tactical breathing)」と、銃撃戦などの高度なストレス状況の後で行われる「事後報告会」について書かれている。

まず、戦闘(に限らず高いストレス状況)が終わった後の生理的反応について説明される。

戦闘後の生理的反応

直後に見られる反応

身体の震え、発汗、寒気、吐き気、過呼吸、めまい、のぞの渇き、強い尿意、下痢、胃の不調、神経過敏など

その夜

睡眠障害や悪夢

その後、数日間

何度も思い出す、ああすればよかったとくよくよする、間違ったことをしたように感じて自信を失う、怒り、悲しみ、無力感、不安、疲労、自意識過剰や妄想、気分の高揚と罪悪感、無感覚や他人とのあいだに距離を感じること、注意力や記憶力が損なわれる

こうした症状の一部、あるいは全部が表れることもあるし、表れないこともある。いずれも、まったく正常な反応である。

事後報告会

たぶん、Debriefingが原語。

「危機的事件後の健忘」について言及されている。

集団で、事後報告会をすることで、「記憶の再構築」が起こる。ほかの参加者からの情報で、自分の記憶を作り直したり、足りない部分を埋める。恐ろしい事件の後で、正常な生活を取り戻すことを助けてくれる。
苦しみの共有は苦しみの割り算であり、人は抱え込んだ秘密のぶんだけ病むのである。事後報告会は、互いに助け合ってトラウマ的事件を乗り越えるために人々が集まり、秘密を打ち明け、苦しみを共有するチャンスだ。p.528
事後報告会を行う目的は、記憶と感情を切り離し、別々に分けることで、その事件を思い出しても交感神経系の興奮が起きないようにすることだ。

この、ディブリーフィングという手法は、日本には阪神・淡路大震災の後、海外から支援に訪れた精神科医やサイコロジストによって導入された。ところがその後、ディブリーフィングの有効性に疑問を示す研究結果がいくつも示されている。
災害や事件の後に、心理的なディブリーフィングを行なうことで、かえってトラウマの侵入や回避の症状の自然回復のプロセスを疎外してしまうといった見解もある(災害直後に心理的ディブリーフィングを行なうことの害について)。

安全が確保されているか、どの時期や段階で行なうか、どんなメンバーで実施するかといったことも影響しているだろう。

戦術的呼吸法

怒りや恐怖といった交感神経系の反応のことを、グロスマンらは「子犬」と表現している。事件の記憶がよみがえると、交感神経系の興奮も起こる。つまり子犬が興奮して、吠えたり暴れたりしはじめる。子犬は心の部屋のあちこちを飛び回り、「網戸」を破ってしまう。早く網戸の穴をふさがないと、子犬が飛び込むたびに穴が広がって、ふさぐのがどんどん難しくなる。つまり、記憶がトリガーになって、交感神経系の興奮が起きやすくなるというわけだ。


戦術的呼吸法(タクティカル・ブリージング、コンバット・ブリージングなどと呼ばれることもある)は、その子犬に「引き綱をつける」ような方法だ。

高いストレス状況で、戦術的呼吸法を行なうことで、交感神経系をコントロールすることができる。すなわち、心臓の激しい動悸を鎮め、手の震えをやわらげることができるのである。

身体の活動は、「体性神経系」と「自律神経系」に分けることができる。体性神経系とは、手を挙げるとか、歩くといった意識的にコントロールできる行動に関わる。自律神経系は心臓の鼓動などの意識されない身体の活動を担っている。呼吸とまばたきは、ふだんは自律神経系の活動だが、意識的にコントロールすることもできる。というわけで、呼吸は体性神経系と自律神経系の架け橋だという。
恐怖の先には暗黒面(ダークサイド)がある・・・恐怖は怒りにつながり、怒りは憎悪に、憎悪は大きな苦しみにつながる。ヨーダ
という『スター・ウォーズ』のジェダイ・マスターの言葉が引用されていた。

やり方は、非常にシンプルだ。
いろいろなバージョンがあるらしいが、「4つ数える方法(フォーカウント・メソッド)」というものが紹介されている。

鼻から4秒吸う、4秒止める、口から4秒吐く、4秒止める

という呼吸を何回か繰り返すというやり方。腹式呼吸で行なうのがポイント。

ヨガや武道にもいろいろな呼吸法があるけれど、いざというときにはシンプルな方がやりやすいだろう。


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