ジュリア・エンダース『おしゃべりな腸』岡本朋子+長谷川圭訳、サンマーク出版、2015年

原題は、『Darm mit Charme(腸ってチャーミング)』だそうです。

フランクフルト大学の医学部の学生さんで、専門は「腸」とのこと。

「サイエンス・スラム」という若手の科学者が一般の人を前に専門分野についてわかりやすくプレゼンテーションする大会で注目を浴びたらしい。1990年生まれだって。

「トイレの正しい座り方」とかウンチの見分け方など、面白いところはたくさんあるのだが、ここでは腸と脳の関係について記載されたところを紹介したい。

脳と腸の関係

ホヤという海に住む生き物がいる。
小さな脳と脊髄と、食物を出し入れする管(口と腸と肛門の原始的なものですね)がある。若いホヤは、お気に入りの場所を探して大海をさまよう。
そして、安全で暮らしやすい岩場を見つけると、そこに定着して、一生動かない。驚くのは、定着したホヤは、自分の脳を食べてしまうということ。

脳は「運動する」ためにあるので、居場所を定めたホヤにはもう必要ない器官なんだそうです。

私たち人間は、脳をありがたがっていますが、ホヤのことを考えると、実はそれほどたいしたものではないのかもしれない。

腸は「第二の脳」なんて言われることもあるけれど(ちなみに「第三の脳」は皮膚だそうです)、人間の「心の座」も脳だけじゃなくて腸にあると言ったっていいんじゃないか。
私たちの「自我」は脳にだけあるのではありません。
とジュリアさんは書いている。腸には身体のほかの部位とは比べものにならないほどたくさんの神経が集まっていて、神経ネットワークも非常に発達している。「腸脳」だとか「腸脳力」という言葉で説明されることもあるのだそう。腸能力ってなんだかすごいですね。「腸能力少年」とか。

お腹の調子と気分は深く関係している。
「生まれてすぐ、腸と脳はパートナー関係を結びます」とのことで、「腸からのシグナルは、脳のさまざまな部位に届けられ」る。
腸からの情報は、「自己認識、感情の処理、道徳観、不安、記憶、動機付け」などに関わる脳の部位(島皮質、大脳辺縁系、前頭前皮質、扁桃体、海馬、前帯状皮質)に伝わっているのだそうだ。

腸の不調とストレス、うつ病

腸はたとえば飲み過ぎたときの不快感だとか、何か異常が起きたときの痛み、お腹がいっぱいになったときの満足感などを脳に伝える働きをもっているが、重要ではない情報は普通はわざわざ届けない。

ところが、腸が過敏になると、腸から脳への連絡がおかしくなるのだそうだ。

過敏性腸症候群の患者は、お腹がゴロゴロしたり不快になったときに、過敏に反応しすぎてしまう。そして、腸と脳が最もよく伝え合う情報は「ストレス」だという。

人体に存在するセロトニンの95%は腸でつくられているので、「うつ病の原因は頭ではなく、お腹にあるのかもしれない」とのこと。腸の不調が不安やうつを悪化させるのであれば、腸を整えることも大切だろう。

腸内細菌が「不安」「うつ病」「気分障害」の治療にも、「サイコバイオティクス」に動き|Medエッジ

という記事によると、腸内細菌と脳の相互作用を利用して、うつ病や気分障害を治療しようという試みが研究されているようだ(「サイコバイオティクス」というんだって)。
腸内細菌叢は、住処を拡大するために人々が社交的である必要があり、そのために脳に働きかけるように進化してきたのかもしれない
なんて、なかなか面白い説だと思う。

また、「無菌環境で成育して腸内細菌叢を持たないネズミが他のネズミを認識する能力に欠ける」ということも発見されているらしい。「腸内細菌叢を邪魔してみると、人の不安やうつ病、自閉症に似た行動が誘発された」のだと。

同じく

善玉の微生物を含んだ食物を取ると悲しい気分を軽くしてくれる、腸内細菌が関係する|Medエッジ

には「善玉の細菌を食べることで悲しい気分に関連する負の思考を押さえる役割を果たす」と紹介されている。

私たちの心は脳じゃなくて腸、さらには腸内の微生物がコントロールしている、となってくるといったい<私>ってなんでしょうね。


おしゃべりな腸




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