摂食障害とメンタライゼーションー自他の気持ちを顧みる能力が高くても感情の調節が難しいこともある
摂食障害とメンタライゼーション : ブリミア・ネルヴォーザ患者の高いリフレクティブ・ファンクション
Eating Disorders and Mentalization : High Reflective Functioning in Patients with Bulimia NervosaSigne Holm Pedersen et al,J Am Psychoanal Assoc August 2015 vol. 63 no. 4 671-694例によってアブストラクトだけ読んだ。
メンタライゼーションとは
摂食障害の分野でもメンタライゼーション理論が適用されることが増えているらしい。メンタライゼーションとは、自分自身や他者の心の状態に意識を向けて、感じたり、考えたりすることを意味している。自分の状態を客観的に眺めたり、あるいは他者の立場に立って気持ちを汲む、自分や他者の行動を共感的に理解するといったことも含まれている。
『人の心は読めるか?』(ニコラス・エプリー、早川書房)
で取り上げた「マインドリーディング」という言葉と似ているかもしれない。ようするに自分や他者を「心をもった存在」として理解しようとすることがメンタライゼーションということだ。
こんなふうに書くとなんだかとても難しい概念に聞こえるけれど、普段の生活や人間関係で、誰もがやっているごく当たり前のことでもある。
言葉としてはずいぶん昔から使われていたようだけれど、近年、対話型ロボットの開発や自閉性スペクトラム障害の理解といった文脈で取り上げられることが多くなってきたそう(*)。
摂食障害とリフレクティブ・ファンクション
この研究では、ブリミア・ネルヴォーザ(過食症)の5人の女性へのインタヴューをもとに質的研究が行なわれた。サブタイトルにも登場する「リフレクティブ・ファンクション」という言葉は、なんて訳されているんだろう。反射機能? 人の心を熟考する(写し出す)はたらき? 検索すると「顧みる能力」とか「リフレクティブ機能」なんているのを見つけた。
A meta-cognitive ability to think about thoughts and feelings of both self and others in an attempt to understand the behavior of both self and other people (Fonagy & Target, 1997)「自分や他者の行動を理解しようとするときに自分と他者の思考や感情について考えるメタ認知能力」と定義されているようだ。
「メンタライゼーション」と似ているけど、どう使い分けているのかな。
それで、5人とも、このリフレクティブ・ファンクションを測定する尺度(Reflective Functioning Scale)で高い得点を取ったのだって。つまり、被験者となった過食症の女性はみな、自分や他者の思考や感情について考えるメタ認知能力が高く、メンタライジング能力も豊か明らかになったということ。
これまでの研究では、情動の調節能力は自身や他者の思考と感情を写し出す(リフレクトする)スキルと関連していると言われている。
けれど、この研究で明らかになったのは、メンタライゼーションの能力が高度に発達していても、彼女たちの情動を調節する助けになっていないということだ。
考えられるのは、メンタライズ能力は必ずしも情動調節能力と密接に関係しているわけではないかもしれないということだ。
メンタライゼーションという概念はoverinclusive(なんでもかんでも含んでいる)で、もっと厳密に定義する必要がある(やっぱり)。
メンタライズ能力は感情を言葉にする能力(アレキシシミアの反対)と密接に関連しているけれど、必ずしも情動を調節する能力を伴うわけではないだろうという結論。
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