ゲーム脳? 暴力的なゲームは子どもの攻撃性を増すか? アメリカ心理学会の主張とそれへの反論

8/17/2015

ゲーム テクノロジー 子ども

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ゲームが青少年に与える悪影響、云々以前には、マンガや文学が子どもと青少年に与える悪い影響について、あれこれ言われていたのでした。

マンガに限っても、『がきデカ』や『ハレンチ学園』がPTAや教育委員会から激しく批判されたし、『シティハンター』や『北斗の拳』『クレヨンしんちゃん』だって、なんだかんだと言われてきました。で、確かに子どもたちは秘孔をついたりお尻を出したりして、攻撃的かつハレンチな行動をしたのも事実でしょう(主に男子)。

文学では、たとえば以前にも取り上げた『若きウェルテルの悩み』が青少年の自殺を誘発したのではないか、といった批判がありました。

テレビゲームについても、「ゲーム脳」がどうしたこうしたとか、日本でもいろいろ議論というか、問題にされたことはたびたびありましたね。


アメリカ心理学会はゲームと攻撃性の関連を主張

つい先日、アメリカ心理学会の委員会が、暴力的なビデオゲームをプレイすることと、攻撃性の関連について認めるレポートを発表しました。

APA Review Confirms Link Between Playing Violent Video Games and Aggression

暴力的なビデオゲームをプレイすることで攻撃的な情動や認知が増えて、共感性などは逆に減る、と主張されているようです。

「ひとつのリスク要因で、人が攻撃的/暴力的になるわけではない。むしろ、様々なリスク要因の蓄積が、攻撃的/暴力的行動につながるのだ。この度の調査では、暴力的なビデオゲームをすることが、そうしたリスク要因のひとつであることが示された」

ただし研究班は、これまでの研究では男の子と女の子に与える影響の違いだとか、10歳以下の子どもの発達への影響についての研究が十分ではないことも認めているといいます。

さて、このあたり、実際のところどうなんでしょうね?

小説などの文学作品やマンガで、これまで何度も繰り返されてきた話だし、「若い人のやることは大人は気に入らないもんだ」といったようなことなのかもしれません。

それこそ、若い世代の猿が芋を海水で洗いはじめたのを、年配の猿がにがにがしく眺めている、といったような、世代間のギャップとして理解できる面もあるのでしょうか?


それとも、確かにこうしたゲームは子どもの心身の成長に、ネガティブな影響を与えているのでしょうか?

子どもに何歳頃から性教育をしたり、あるいは性的なことがらへに触れるのを認めるのか、といった問題と同じように、おそらくはゲームについても、どこかで白黒はっきりと線を引く、というようなわけにはいかないだろうと思います。

研究者たちの反論

アメリカ心理学会の委員会の発表に対して、研究者たちからの反論も多数ありました。

APA’s Videogames Aggression Report Slammed by Psychology Professors

テレビゲームの害があれこれ言われるのはそんなに目新しいことではないが、この度、目を惹くのは200名を越す心理学者が、APAの報告を徹底的に酷評しているということです。


そもそも委員会のメンバーが、明らかに反メディア的な研究者から選ばれていて、しかも年寄りばっかりで、若者がゲームにふけるのを快くないと思っている人ばかりだというような批判ですね。使用されている攻撃性尺度自体がこれまでに批判されているという問題も指摘されています。

といったように、ゲームが青少年をより攻撃的にするのかどうかということに関しては、心理学者のあいだでもさまざまな見解があります。

いろいろな見解

これまでの研究は、どんな見解だったんだろうと思って調べてみると、下記の論文に詳しくまとめられていました。

テレビゲームの暴力描写が攻撃行動に及ぼす影響 [pdf]

これまでの国内外の研究が概観されています。ゲームセンターに1人でいってお金をたくさん使う男の子は自尊心が低い傾向が見られた、なんてのはまあ分からなくもないな。ゲーセンにたくさんいるほど、攻撃的非行傾向が高いとか、ゲームをしたらリラックスするとか、うんぬんかんぬん。

攻撃性との関係は、研究によっても見解が分かれているようです。


もろもろの研究をまとめると、
  • 暴力的なテレビゲームで遊ぶ時間と攻撃行動の間には、有意な正の相関が認められる。
  • 特に、4ヶ月後の攻撃性を促進するという因果の方向が示唆された。
  • 暴力的なゲームを遊んだあとで、攻撃思考や敵意感情も活性化される。
ということで、賛否いろいろあるけれども、「一部のテレビゲームの暴力描写が一部の青少年の攻撃行動を促進し得る可能性を示唆する方向」もはあるらしい。
なんとも微妙な表現だけれど。

ところが、
暴力ゲームが「プレイヤーを攻撃的な振る舞いに導く」は間違いと判明か

では逆に、「暴力的なゲームを他人と協力してプレイすることは、攻撃的な振る舞いを起こしやすくするのではなく、むしろその逆の可能性がある」とのことです。

暴力的なテレビゲームが脳に与える影響 ―表情認知に与える長期的影響と攻撃性への短期的影響―|東京大学
で主張されていたのは、
  • 暴力的なテレビゲームで長時間遊ぶことが、成人の表情認知に関連する脳活動に長期的な影響を与える一方で、攻撃性に与える影響は短期的であることが明らかとなった。
  • 暴力的なテレビゲームで長時間遊ぶことの長期的な影響を認知神経科学的な手法によって明らかにした。
  • テレビゲームで遊ぶ際のガイドライン作成などへの貢献が期待される。
といったことでした。


個人的な意見

個人的な意見を述べるとするなら、「暴力的なゲーム」としてひとくくりにしてしまうのがそもそも間違いだろうと思うのです。

心理尺度の妥当性を検討したり、あるいはある薬物の効果を測定するときには、特定の尺度や薬物が対象とされるのに、「暴力的なゲーム」でまとめてしまうのは乱暴ではないでしょうか(とはいえ、特定のゲームを名指しで検討するのは、それはそれで難しいだろうけど)。


それから、「暴力的なゲーム」が個人の行動や考え方にどんな影響を与えるかということに関しては、ゲーム以外の人間関係や価値観などの要因も大きいと思います。

そのうえで、「ゲームなんてダメよ」という意見から「好きにすればええやんか」的な見解まで、幅広い意見に子どもが触れて、その中でうまいことごまかしたり悩んだりしながら、自分なりのゲームとのつき合い方を身につけていくのがいいんだろうなと思います。

「これが正しい」というのは、世代の違いやこれからの変化を考えてもありえなさそうなので、流動的な環境/関係の中で自分を保つスキルを身につける、というのがどの子にとってももっとも大事なことなんじゃないでしょうか。

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