人の心は読めるか?

『人の心は読めるか?』(ニコラス・エプリー、早川書房)をだいたい読み終わったので、メモと感想など。
本当の意味で発見に満ちた旅というのは、そして永遠の若さを手に入れる唯一の方法は、知らない土地を訪れることではなく、他人の目を持つことであり、他人の目を通して世界を見ることだ。
―マルセル・プルースト(一九二二年)



読心術とかテレパシーなんていうと「超能力?」と思うけれど、人はみなマインドリーディングをする生きものだ、というのが前提。

「つまり、あなたも読心術者の1人なのである」

「心の理論」なんてのも、一種の読心術=マインドリーディングといってさしつかえないだろう。

「周囲を理解できる」ということは、社会的な生物であるヒトにとって、明らかに有利なことだったし、それは今でも変わらない。

「あらゆる人間関係の根底にある二つの根本的な問い」(p.15)というのは、

「それに『心』はあるのか?」
「相手は何を考えているのか?」

なんだそうだ。確かに人の悩み事の多くは、人間関係にまつわることだろう。

第六感を過信しない

「私たちは相手の心をどれくらい正確に理解しているだろう?」(p.25)

「一連の調査から、グループのだれに空かれて、だれに空かれていないかという問いへの正答率は、当てずっぽうのときをわずかに上回る程度でしかないことがわかった」p.29

「あなたの顔写真が異性から見てどれくらい魅力的か」
「自分の写真を見た異性からどれくらい魅力的と思われるかを被験者に予測してもらったところ、その正確度は、当てずっぽうの推測とほとんど変わらなかった」「愛は盲目だとよく言われるが、被験者には、愛で盲目になるチャンスもなかった。なぜなら、そもそも愛が始まる前から盲目なのだから」p.30

というわけで「第六感」なんて、てんで信じられないということのようだ。「自分には洞察力がある」なんてのも、単なる錯覚です。

まずは自分の心を知る

やってみましょう。
  1. まず、これから数週間以内に終わらせなければならない大事な作業を一つ思い浮かべてほしい。
  2. 次に、その作業が終わる日時を具体的に予測して、正直に欠いてほしい。
  3. 続いて、もっともうまくいった場合には、いつ終わりそうか、その日時を書き留める。
  4. 最後に、あらゆることがうまくいかない最悪の場合には、どれくらい時間がかかるか考えてみて、日時を書き留めること。
といった調査をしてみたところ、「実際にその大事な作業が終わった」のは、多くの人が、4の「最悪の場合」よりも遅かったんだそうだ。
これはまあそのとおりですね。夏休みの宿題でもレポートや論文でも、たいてい「こんなはずじゃなかったのに!」とあわてる羽目になる。
  • 「自分の考えと行動は、えてして矛盾する。それは行動の大半が無意識だから」
  • 「自分の考えならよくわかっている、というのは幻想」
  • 「その幻想は、他人より自分の考えのほうが優れているという思い込みを生む」
  • 「自分自身のことさえ間違えてしまう可能性」
なんてのがこのチャプターのサマリーでした。チャプターごとに要点がまとめられていて親切な本です。

相手の「心」を見る

他人に対するもっとも重い罪は、相手を憎むことではなく、相手に無関心になることだ。それこそが残酷さの本質である。ージョージ・バーナード・ショー
ネイティブ・アメリカンのスタンディング・ベアの逸話がとても興味深かった。当時、白人からは「心」をもった「人間」として見られていなかったインディアンが起こした裁判の話。

スタンディング・ベアーと彼の妻子

白人がネイティブの人々に対して行なった「非人間化」に対して、スタンディング・ベアは「私も、一人の人間なのです」と訴える。

ウブントゥ:心が読めると賢くなれる?

ウブントゥ(Ubuntu)」とはアフリカの古い言い伝えによく出てくる概念だそうで、「人間は、他者を通して存在している」ということを意味しているらしい。
リナックスにこんな名前のOSがあったね。
あなたの人間性は、あなたが一人でいるときの態度ではなく、他人への接し方に表れるというのである。人間性というものは、他者のことを、人間の身体を持っているという生物学的な観点ではなく、人間らしい心を持っているという心理学的な観点から一人の人間として扱うことで生まれる。(・・・)相手の心と正面から向き合えば、相手に人間らしく接することができるばかりか、相手の前で自分がより賢くふるまえるようになる。p.91

モノの「心」を見る

擬人化と非人間化は、コインの裏と表なのだ。p.111
  • 自然現象やペット、車など、人間でないものがまるで意思のある人間に思えてしまう。
  • 人間に似たもの、予測不能な動きをするもの、絆を感じられるものは、人間のように思える。
昔、Macユーザーは「マックには心があるけど、WindowsのPCにはない」なんて言っていたけど(今もそうなのかな)。

自分を基準に考えない

人は生まれもって自己中心的な存在。大人になると「脱中心化」(ピアジェ)する? いやいや、実験では、やはり自己中心的な視点は残っているが、「考えて」それを訂正していることが明らかになっているらしい。

あなたの貢献度は思っているほど大きくない

夫婦に、家庭生活に自分が貢献している度合いをパーセンテージで表してもらってそれを合わせると、たいてい100%を大きく超える値になるのだそうだ。普通に考えると、公平に分担してたら5割と5割で10割になるはずなのに、要はどちらも実際以上に自分が貢献していると思い込んでいるということだ。

「俺だって、休みの日には子どもと遊んだり、掃除したりして、けっこう家のことやってるんだぜ」
「なによ、たまの休みにちょっとしたくらいで。私は毎日してるんです」
なんてやりとりが聞こえてきそうです。

あなたは思っているほど注目されていない

ここで「バリー・マニロウ実験」が紹介されていた。

ステレオタイプを味方につける

ステレオタイプはある程度は正しいところもあるけれど、とらわれると本質が見えなくなる。相手の行動の理由をステレオタイプで説明するのはやめよう。

第二次大戦中につくられたステレオタイプな日本人像

相手の行動から本心を読まない

「人間はごく早い時期に、相手の行動を、その意図と結びつけて理解することを学ぶ。なぜなら、そうすることがしごく理にかなっているからだ。母親が飲み物に手を伸ばすという行為には、たまたまそうしたのではなく、飲み物が欲しいという意図が表れている。手を伸ばすという目に見える行為が、その裏に隠された母親の動機や意図という目に見えないものを示しているわけだ」「この根強い直感のために、私たちは相手の心を考えるときにミスを犯してしまうのである」

第六感を修正して広い視野から見ることが大切。

読心術の達人になる

テレビドラマ『ライ・トゥー・ミー 嘘は真実を語る』が取り上げられていた。アメリカの運輸保安庁では、相手の嘘を見抜くための微表情に関する訓練プログラムを実際に行なっているんだそうだ。この訓練を受けた「行動分析官」は、手荷物検査の列に並ぶ乗客とあたりさわりのない話をしながら相手の様子を観察しているとのだって。

科学的な根拠は弱いとの批判もあるとのこと。

無理に読心術をしようとするのではなく「相手に聴く」のが早くて正確だという。まあ当たり前か。
  • 相手の視点に立って考えても逆効果の場合があるので、直接聞いてみよう。
  • 相手の考えを正しく理解できているか本人に確認しよう。
  • 相手の心を読むには、まず自分の心をオープンにしよう。

第六感とともに生きるには

キューバ危機のとき、フルシチョフとケネディは「赤電話」で直接会話することで危機を乗り切った。お互いの恐怖心、誤った情報、不信感から相手の意図を読む(そして裏をかく)のではなく、赤電話で直接対話することが大切という教訓。

こんな感じの本でした。いろんな心理学実験が紹介されていて面白かった。



こちらは著者のエプリーさんによる販促動画らしい。途中、実験の様子なども紹介されている。



動画のコメントに「(原著の)表紙が使い古されたデザインでよくない」とあったので見てみた。


なるほど。こんなのでした。ルビンの杯。




見比べてみると、邦訳の表紙の方がしゃれてますね。「め」と「の」がへのへのもへじみたいでいい。