恐怖で白髪になる?

子どもの頃に、エドガー・アラン・ポーの『メエルシュトレエムに呑まれて』(1841年)という小説を読んだことがある。漁師の兄弟が、海に出てメエルシュトレエムと呼ばれている巨大な渦巻きに巻き込まれるというストーリーだった。

大渦にとれられた船はぐるぐると回転しながらしだいに渦の真ん中に引き込まれていく。死を覚悟した漁師だが、よくよく渦とのみこまれていくたくさんのものを観察していると、次のようなことに気づいた。体積が大きいものや球状のものは早く渦の中心に落下するが、円柱状のものは飲み込まれるのに時間がかかるようなのだ。
彼は兄にそれを伝えて脱出しようとするが、兄は恐怖で錯乱しており、船を離れることはできなかった。漁師は自分を円柱状の樽にしばりつけて海に飛び込む。船はすぐに飲み込まれてしまったが、樽と漁師は飲み込まれずに、渦が消えるまでもちこたえることができた。

漁師はこのように言う。「恐ろしさに髪は真っ白になり、まるで老人のように変わってしまって、助けてくれた漁師たちはだれも私だとわからなかった」(ストーリーと挿絵はWikipediaより)。

この小説を読んだときに、恐怖によって髪が真っ白になったり、皺だらけになるなんてことがあるのかと不思議に思った記憶がある。


PTSDが加齢を速める

PTSD Tied to Accelerated Aging|Psyche Central

という記事では、心的外傷後ストレス障害(PTSD)が、加齢を速めているという研究が紹介されていた。


6つの研究で明らかになったのは、PTSDの人々は白血球のテロメア(telomere)の長さが減少しているということだという。テロメアとは、染色体の末端部にある細胞分裂に関わる構造で、細胞分裂を繰り返すと短くなる。だから、細胞の寿命に関係してるのだそう。



Telomere

また、C反応性蛋白(C-reactive protein)と腫瘍壊死因子α(tumor necrosis factor alpha)のような炎症誘発マーカーの増大とPTSDが関連していることも研究で明らかになったという。

よく分からない用語が出てきたので調べてみる。C反応性蛋白というのは、体内で炎症反応や組織の破壊が起きているときに血中に現れるタンパク質のこと。腫瘍壊死因子とは、癌細胞に対する殺細胞効果をもったホルモンのことらしい。

心血管疾患、Ⅱ型糖尿病、胃腸潰瘍疾患、認知症といた加齢に関連する病気の合併がPTSDでは増えることも、多くの研究で明らかになっている。
こうした発見は、PTSDは単に精神的な障害ではなく脳や身体を含めた疾患である可能性を示唆している。