ソーンダイクの猫の問題箱=試行錯誤

アメリカの心理学者エドワード・ソーンダイク(1874-1949)は、動物の学習行動を実験するために「猫の問題箱」を作成して実験したことで知られている。猫の問題箱とは、猫を閉じ込める檻のようなもので、中の紐を引っ張らないと扉が開かない仕組みになっている。閉じ込められた猫は、外にでようとあれこれ試みる。偶然、紐を引っ張ると外に出て餌を食べることができるのである。

ソーンダイクによると、猫の行動は何かの見通しをもったものではなく、試行錯誤にすぎないという。

Thorndike’s Puzzle-Box
横軸が試行回数(猫が箱に閉じ込められる回数)で、縦軸が脱出までにかかった時間となる。回数を重ねると脱出時間は短くはなるが、それでもたまに時間がかかっている。

ソーンダイクはこうした学習を、試行錯誤学習と呼んだ。刺激状況(S)と反応(R)の結びつきが強められる(あるいは弱められる)ことで学習が起こるのである。これは、後の行動主義の考え方の基礎となっていく。

ケーラーによるチンパンジーの洞察学習=ひらめき

ドイツの心理学者ウォルフガング・ケーラー(1887-1967)は、チンパンジーを使った実験を通じて、類人猿は試行錯誤ではなく洞察学習をすることを発見した。
下の写真を見ると、チンパンジーの手の届かないところに、バナナが吊り下げられている。どうしたかというと、片隅にあった箱をいくつか重ねてよじ登り、バナナを手に入れたのだ。これは試行錯誤によってできたことではなくて、チンパンジーは箱を重ねると手が届くと「はっとひらめいた」わけだ。


Memoir Wolfgang Köhler(ウォルフガング・ケーラーの思い出)というページを読むと、心理学の実験に類人猿を使った最初の研究者の一人がケーラーだそうだ(それまでは、犬や猫、鳩、ラットなどが用いられた)。

マシュマロチャレンジ

先日、ひさしぶりにグループでマシュマロチャレンジをしてもらう機会があった。マシュマロチャレンジとは、スパゲッティの乾麺と90センチのテープ、一つのマシュマロを使って、できるだけ高いタワーを建てることを目標にして行う、チームビルディングの手法だ。詳しくは、下記のTEDのレクチャー参照。

やってみたあとのふりかえりでも、「とにかく作り始めること」「あれこれ試行錯誤すること」が大切だとの意見が多かった。ちなみにマシュマロチャレンジの世界記録は99cmとのこと。

ソーンダイクさんとケーラーさんを比べると、洞察学習の方が高尚な感じがするけれど、何もないところから洞察するわけじゃない。
そもそも試行錯誤の意味合いは、
新しい物事をするとき、試みと失敗を繰り返しながら次第に見通しを立てて、解決策や適切な方法を見いだしていくこと。[goo辞書]
とのことで、「次第に見通しを立て」るというプロセスが本来含まれている。人間の場合は、他の動物と比べて試行錯誤を頭の中で行う能力が優れているということだろう。

ちょうど今朝読みかけた、『哲学する赤ちゃん』(アリソン・ゴプニック、亜紀書房、2010には、人間の赤ん坊がすでに「可能世界」についてあれこれ想像する力をもっていて、それが洞察学習につながっている、といったことが書かれていた。
可能世界を、言葉によって共有したり、お互いに検証することで、より効率的に課題に取り組むことができるようになる。
でっかい古墳とか、ピラミッドって、偉い王様が皆を従わせて無理やり作らせたように言われることがあるけど、作り手たちに「可能世界」を共有して現実にしていくことの楽しさもあったんじゃないかな。