教育の経済学と非認知能力
例によってdマガジンで雑誌をぱらぱら。
「週間東洋経済」(2015年10月24日号)を読んだ。
ふだんはほとんど手に取ったことのない雑誌だ。
“「教育」の経済学”
という特集で、なかなか面白かった。
今年の6月に発売された『「学力」の経済学』(中室牧子著)という本が15万部を超えるベストセラーになっているそうで(今度読んでみよう)、「教育経済学」に注目が集まっているという趣旨の記事だった。
「教育」にも「科学的根拠(エビデンス)」が求められる時代になったのだなあ、というのが一読しての感想。
教育とか教師のパフォーマンスって、カウンセラーと似て、サイエンスではなくてアート(芸)としての側面が重視されてきたと思う。
けれども個人的な体験に基づく主観的な見解だけでなく、それらを積み重ねた普遍性や規則性もまた大切なのではないか、ということらしい。
もちろん、(カウンセリングと同じく)すべてがエビデンスベースドで解決できるわけではなくて、よりよい教育を実現するためのツールのひとつとなるだろうとの主張。
興味深かったのは、「就学前の教育が投資対効果が高い」といった研究の紹介で出てきた「非認知スキル」という概念。
ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン教授が行なった調査では、就学前教育を受けたグループは40歳になった時点で学歴や収入などがいずれも高かったのだという。
面白いのは、就学前教育を受けた子どもの学力やIQは確かに向上したが、「8歳前後になると対照群との差はほとんど見られなくなった」というくだり。
「なんだ、変わんないのか」
と思うが、でも40歳時点での収入は違う。
なぜか。
どうやら、大人になってからの社会的成功に重要なのは、意欲だとか忍耐強さといった目には見えない能力で、これを「非認知スキル」と呼んでいるらしい。
たしかに、こうした動機付けのある人の方が、人生においても、社会的にもうまく生きていくことができそうに思える。
でもどうしたらこの「非認知スキル」を向上させられるのかは、はっきりと書かれていなかった。いや、就学前教育を受けた子どもは「非認知スキル」も向上しているであろうということなんだろうけど。
オンライン版の「東洋経済」のヘックマン教授による記事も読んでみた。
たとえば「ペリー就学前プロジェクト」では、午前中に毎日二時間半ずつ教室で授業を受けさせて、週に1度は教師が家庭訪問をして90分間の指導をしたという。
かなり手厚い教育ですね。
その結果、IQテストや学力検査の成績などの「認知的スキル」と、それ以外の「非認知的スキル」のどちらにもいい影響があり、その効果はずっと後まで継続したという。
授業や個別指導の内容は、次のようなものだった。
当初はIQや学力などが高くなったが、効果はしだいに薄れて、介入が終わって4年経過すると認知的スキルへの影響はすっかりなくなった。
ただし、非認知スキルには、その後もポジティブな影響が続いたという。
恵まれない子供の幼少期の環境を充実させる数々の研究では、家庭環境の強化が子供の成長ぶりを改善することを示し、改善の経路として非認知的スキルの役割が重要であることが示されている。非認知的スキルとは、肉体的・精神的健康や、忍耐力、やる気、自信、協調性といった社会的・情動的性質である。ふむふむ。「ペリー就学前プロジェクト」(1960年代に低所得のアフリカ系の子どもを対象に実施された)とアベセダリアンプロジェクト(1970年代に恵まれない家庭の子どもを対象に実施された)というふたつのプロジェクトが紹介されている。
指導内容は子供の年齢と能力に応じて調整され、非認知的特質を育てることに重点を置いて、子供の自発性を大切にする活動を中心としていた。教師は子供が自分で考えた遊びを実践し、毎日復習するように促した。復習は集団で行い、子供たちに重要な社会的スキルを教えた。就学前教育は30週間続けられ、子どもたちが40歳になるまで追跡調査が行なわれた。
「やればできる」「がんばれば報われる」といった自己効力感は、生涯を通じて保たれていて、それがいい影響を与えるのだろう。
スキルがスキルをもたらし、能力が将来の能力を育てるのだ。幼少期に認知力や社会性や情動の各方面の能力を幅広く身に付けることは、その後の学習をより効率的にし、それによって学習することがより簡単になり、継続しやすくなる。幼少期の家庭環境、非認知能力が学歴、雇用形態、賃金に与える影響|
経済産業研究所
によると、「高校の時に無遅刻であった」ことが、「現職が正社員」であることと相関している。また、「運動系クラブで熱心に活動」が「現在の賃金」に関係が深いという。
子ども教育<人生の成功にはIQより非認知能力>ヘックマン教授|INSPIRING
幼児教育が人生に与える影響:研究結果|WIRED
などでも、ヘックマン教授の見解が紹介されている。「頭の良さ」よりも、「粘り強さや信頼性、首尾一貫性は、学校の成績を予測する上で最も重要な因子」だって。
以下、関連本。読みたい本リスト。
マシュマロテストについては下記でも書いた。
記憶力のいい子どもは、より優れたウソツキなのだ。そして、マシュマロ実験とあっくんとみえちゃんの話。
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