スキップしてメイン コンテンツに移動

デジャヴ(既視感)と記憶の心理学


デジャヴ(既視感)とは

初めての場所を歩いていて、「あれ、ここには来たことがあるぞ」と感じることがあります。

あるいは、誰かと話をしている最中に、
「この場面はすでに体験したことがある」
という感覚をもつこともあります。

「このあときっと、彼がこんなことを言うんだった」
と「思い出して」いると、そのとおりのことが起こったりします。

デジャヴ(Deja vu)と呼ばれている体験で、既視感とか既視体験などと訳されています。
初めてのことなのに、まったく同じことが前にもあったと強く確信するような体験です。

こんな不思議な体験が続くと、
「ひょっとして自分だけ時間がループしているんじゃないか?」(そんな映画がありましたね。なんだっけ、トム・クルーズが出てた)
「俺って未来が予知できるのかも。宝くじ買わねば」
「運命はすべて決定されているのか」
なんて考えてしまいます。

はたしてデジャヴは、未来予知やタイムループといった超常的な現象と関係しているものなのでしょうか?

Psychology Todayの"What Is Déjà Vu?"という記事には、
the experience of déjà vu is just an extreme reaction of the system that your memory uses to tell you that you are in a familiar situation.
「デジャブ体験とは、あなたが似たような状況にいるということを知らせる記憶のシステムが極端に反応したものだ」と書かれていました。

ループした時間の中に閉じ込められている

すべての景色に見覚えがある「デジャヴ」に7年間苦しむ男性 | livedoor NEWS

というニュースでは、イギリスの医学論文『Journal of Medical Case Reports』に報告された奇妙な事例が紹介されていました。
23歳の男性は、2007年以来、生活のなかで体験するありとあらゆる出来事に、デジャヴを感じてしまうようになったというのです。

男性はもともと強迫性障害を患っていたそうですが、大学入学の後、症状が悪化し、デジャヴ体験が増えてきたのです。
そのうち一日中、すべての出来事に既視感が伴うようになり、「自分はループした時間の中に閉じ込められている」と苦しむようになってしまいました。
旅行をしても人と話しても、テレビやラジオをつけても、「前にも見たことがある」と感じるというのは、不思議を通り越して苦痛な体験になってしまうのではないでしょうか。

デジャヴと精神疾患

デジャヴという言葉は、フランスの心理学者エミール・ブワラックによって1917年に提唱されました。フランス語で、「すでに見たことがある」といった意味も言葉です(ちなみにデジャヴとは反対に、見慣れたはずなのに初めてのように感じられる現象を「ジャメヴ(未視感)」と言います)。

デジャブ自体は、多くの人が普通に経験することで、健常者でも3分の2くらいは体験したことがあると報告します。
わりと一般的な体験なんですね。
ただ、先の事例のようにあまりに極端になると、生きづらくなってしまいます。
また、他の精神疾患の症状と関連して、デジャヴが現れることもあります。

『解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理』 (ちくま新書) には、解離性障害や離人症との関連で、「解離の患者はこのデジャヴュを幼少期から頻繁に体験していることが多い」と述べられていました。

解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理 (ちくま新書)

統合失調症の患者がデジャブを体験しやすいなんて話を聴いたことがありますが、実際はどうなんでしょう?

Déjà vu experiences in patients with schizophrenia

という論文によると、
The patients with schizophrenia had déjà vu experiences less frequently (53.1%) than did the nonclinical subjects (76.2%). 
とのことなので、統合失調症だからデジャヴが多いというわけではなく、むしろその体験は少ないと言えます。
一方で、
 However, the experiences of the patients tended to be longer and more monotonous. The patients often felt alert, oppressed, and disturbed by the experiences. They appeared to have the experiences under unpleasant mental or physical states. 
統合失調症者のデジャヴはより長く、単調に続き、油断できない感覚や、圧倒され、動揺させられるような体験となりやすいようです。
また、てんかんなどの脳の病気によっても、デジャヴが起こりやすくなることがあるそうです。

解離性障害や離人症などは、ストレスと関連して症状が悪化することがあるので、デジャヴで悩んでいるときも、ひょっとしたらストレスが大きい状況にあるのかもしれません。

デジャヴはなぜ起こるか?

デジャヴという現象はなぜ起こるのでしょうか?

日本心理学会の「心理学ふしぎふしぎ」というコーナーにまさにその問いに対する回答があったので、紹介します。

Q14.デジャビュ現象はなぜ起こるのですか? | 心理学ふしぎふしぎ
デジャビュの起こる原因の1つは,記憶における類似性認知メカニズムの働きです。たとえば,私たちが,ある経験をする(たとえば場所を訪れる)ときには,類似した過去経験が自動的に想起されます。そのとき,現在の経験と過去経験の類似性が高いほど,既知感が高まります(未知感は逆です)。ここで,デジャビュ現象は,とても強い既知感があっても,(エピソード記憶や関連知識などに基づいて,たとえば「この地方,この場所に来たことはない」と)未経験であることを認識している点がポイントです。
こんな記憶のメカニズムが、デジャヴを引き起こしているようです。

そういえばトム・クルーズ主演の次の映画も、デジャヴっぽいテーマといえなくもないです。

オール・ユー・ニード・イズ・キル [Blu-ray]

コメント

  1. つい先日、亡き愛犬のデジャブのような錯覚を感じました。

    返信削除

コメントを投稿

このブログの人気の投稿

果物に例える恋愛心理テスト「フルーツバスケット」で本音がわかる?

簡単な恋愛心理テスト「フルーツバスケット」 「フルーツバスケット」という簡単でおもしろい心理テストのことを聞きました。 「心理テスト」というよりは「心理ゲーム」と呼んだ方がいいですね。 こんなゲームです。 【問】 あなたの目の前に、フルーツバスケットがあります。バスケットには、リンゴ、バナナ、ぶどう、みかん、イチゴ、キウイが入っています。5種類のフルーツを、それぞれ身近な異性にあてはめてみてください。 リンゴ= バナナ= ぶどう= みかん= イチゴ= キウイ= さて、いかがでしょう? 何人かにあらかじめ聞いておくと、後で比べられて楽しいです。

数唱と語音整列の乖離は何を意味しているか?

WAISの数唱と語音整列について、この二つに乖離があったらどう解釈されるんだろうかと思って調べてみたメモ。どちらも作動記憶(ワーキングメモリー)に含まれる下位検査だが、いくらか性質が違う。両者の相関は、中程度くらいだったと思う。 数唱 vs 語音整列 Digit span versus letter number sequencing とある海外の掲示板(?)でのやりとり。 一方が他方よりも高得点だった場合、どんな風に説明できるかな? どっちも順番に配列することが含まれているし、ほとんどの人が順序を操作するために聴覚的記憶を使ってると思う。けど、4点以上の乖離(discrepancy)があった場合は? 実施したばかりのアセスメントを詳しく考えてみると、言葉の受容と表出が明らかに難しいケースだったけど、視空間スキルと処理速度はまったく問題なく保たれていた。-Miriam という問題提起に対するスレッドのようだ。 私も以前に何度か同じようなパターンに出会ったことがあって似たようなことを考えたことがあるけど、ぜんぜん専門外だったから。あなたももう考えてるだろうけど、語音整列はたぶんより複雑な課題だと思う。というのも、数唱のように単に数字を扱うんじゃなくって、(文字と数字という)二種類の情報を使ってそれを切り替えながら作業しなきゃいけないから。被験者が教示を理解して、すべてをすっかり頭に入れることができたという手応えはありましたか? これ(語音整列)を実行するにはいくつかの操作が必要だし、呈示されたものすべてを受け取るには言語受容スキルが特に障壁となるかもしれません。他の下位検査にもこの仮説が当てはまるならば意味をなさないかもしれませんが・・・もっと知識のある人ならいい意見が出せるかも。-Butterfly22 私も同じように考えていました。数唱よりも語音整列の方がいいスコアを示しているような同様のアセスメント事例がおかしいのはなんでかなって。-Miriam 数唱が高くて語音整列が低い場合は、並べ替えなどの操作が入ると難しいのかなと推測できるけど、逆の場合はなんだろう。 数唱は基本的にはワーキングメモリーのタスクだけど、語音整列は、上の人が言ってるみたいに、もっと複雑だ。より心的に柔軟でないといけないし、情報の保存/再生の能力だけでなくて...

イヤーワームになる曲トップ9、そして対処法(頭から離れない曲)

止まらないメロディーの正体とは?イヤーワーム現象を科学する 1. イヤーワームとは?耳に残る音楽の正体 頭の中で特定の曲が何度も繰り返される現象を「イヤーワーム」と呼びます(ディラン効果とも。ボブ・ディランの「風に吹かれて」もイヤーワームが生じやすい曲として知られています)。この言葉は、英語の「earworm(耳の虫)」に由来し、まるで耳に虫が入り込んで音楽を流しているかのような感覚にたとえられています。イヤーワームは、特に集中が必要な時や眠る前に起こりやすく、勉強中や仕事中に困った経験がある人も多いでしょう。 頭のなかである曲が延々と流れ続けて止まらなくなる現象を「イヤーワーム」と言います。 「耳の虫」という意味で、まるで耳に虫がもぐりこんで音楽を流しているみたいに体験されることからそう呼ばれています。 強迫性障害や統合失調症の症状として見られることもありますし、健康な人だってしばしば体験します。脳のバグみたいなもんでしょうか。勉強中や仕事中など、何かに集中しなくてはならないときに、イヤーワームが気になって仕方がないということもあります。受験生でイヤーワームに取り憑かれて困っているという人の話を聞いたことがあります。確かに困りますよね。 Psychologists Identify Key Characteristics Of Earworms 「心理学者たちが見つけたイヤーワームの本質的特徴」 という記事が、アメリカ心理学会のサイトに掲載されていました。 イヤーワームを生じさせやすい曲として、たとえばレディ・ガガのBad Romanceが挙げられていました。 2. イヤーワームが起こりやすい人とその原因 イヤーワームは健康な人にも頻繁に起こりますが、強迫性障害や統合失調症などの精神疾患と関連する場合もあります。脳が「バグ」を起こしたかのように、無意識にメロディーがリピートされてしまうのです。心理学的には、音楽の反復やリズムが脳に影響を及ぼし、メロディーが意識に残り続けることが指摘されています​ Hiroshima University Repository 。 3. 科学的に解明されたイヤーワームを引き起こす音楽の特徴 アメリカ心理学会の研究によると、イヤーワームを引き起こしやすい曲にはいくつかの共通点があります。それは以下の3...