ハロウィン小話。進化心理学で解く「呪いの館はなぜ僕らをぞっとさせるのか」

公開日: 10/31/2015 いろいろ 心理学


ハロウィンということで、魔女や骸骨、ゾンビ、ドラキュラなどの姿でコスプレした子どもや大人(最近は大人の方が多いですね)が街を練り歩いているころでしょう。

欧米ではこのお祭りの時期、「怖い話」を皆でして盛り上がることもあるようです。
日本でも夏になると怪談をするのといっしょですね。

ホラーといえば、「呪いの館」というジャンルがあります。

旅の途中に道で迷った人(カップルとか)が、森の中の館に一晩の宿を乞う、というのが定番のストーリーの始まりです。
ちょっと不気味な顔をした主人が出てきて最初はびっくりするのだけど、夕食なんぞごちそうになったりして、「なんだ、意外といい人じゃない」「そうだね、ラッキーだったね」なんて言っていると夜中に恐怖の出来事が・・・

てな感じで物語は展開していきます。
いや、さすがにここまでベタな「呪いの館」ものはもうないかもしれないですが、クラシックなホラー映画では定番です。
パロディ映画ですが、『ロッキーホラーショー』もこの「呪いの館」モチーフが使われていました(また映画館で観たいな。かつて観たときは、コスプレしているファンがたくさんいました)。

進化心理学で解く「呪いの館はなぜ僕らをぞっとさせるのか」
Evolutionary psychology explains why haunted houses creep us out | the conversation

というエッセイでは、タイトル通り、「呪いの館」の怖さについて、進化心理学の視点から説明されていました。

心理学的な観点から見れば、恐怖の引き金となる呪いの家の作用は、「家」なんてものが存在するよりずっと以前から進化してきたのです。

こうした警戒信号は、隠された危険を警告して、私たちが注意深くふるまうようにしてくれるのです。

呪いの館が私たちをぞっとさせるのは、明らかな恐怖があるからではなく、むしろ恐怖の対象があるのかないのかはっきりしないからこそなのです。

生きものには、‘agent detection’ メカニズムというものがあって、何か動いたり、気配がしたときに、「何かが意図を持って行動しているのではないか」と推測するような能力があるのだ、ということがエッセイには書かれていました。

森の茂みの向こうでざわざわと音がしたら、人に限らず多くの生きものは、「何かがそこにいるんじゃないか」「ひょっとしたら自分を食べようとしているのかもしれないぞ」と警戒するようにできているのだということ。

なんでこういう警戒機能が進化してきたか、ということは明らかですね。

茂みの向こうに本当に熊や狼がいることだってあるので、多少、過剰反応かもしれなくても、鈍感であるよりは「何かいるかも」と感じる方が生き延びる可能性が高いのです。

「見られることなく見ることができる、食べられることなく食べることができる」場所を生きものは求めているので、ホラー映画に出てくるような人里離れた見慣れぬ館は、不安を喚起して、‘agent detection’ メカニズムが「何かいるかも」と感じさせるのです。

ポルターガイストとかラップ音現象なんてのも、そういう心理的な警戒が影響しているのでしょう。
いや、ほんとに霊が動かしている可能性を否定するものではないと思うけれど。


うつ病を繰り返すネズミと脳

公開日: 10/30/2015 うつ病 精神医学


理化学研究所脳科学総合研究センターの研究グループが、うつ病を繰り返すモデルマウスをつくることに成功して、うつ状態の原因が脳の「視床室傍核」という部位の機能障害に関係がある可能性が高いことを発見したのだという。

自発的なうつ状態を繰り返す初めてのモデルマウス ―うつ病の新たな候補脳部位を同定―

ええと、脳の「視床室傍核」がうまく機能していないマウスは、うつ病の診断基準を満たした、ということなのかな。
「自発的なうつ状態」というのは、人間でいうところの「内因性のうつ」と似ているのだろうか。
動物実験では、マウスを溺れさせたり、ぶらさげたり、動けなくしたりとストレス状況において人工的に「うつ状態」をつくり出すことがあるので(かわいそうだ)、それと対比されていると思われる。

それにしてもマウスのうつ病の診断だって。
  • 興味喪失
  • 睡眠障害
  • 食欲の変化
  • 動作の緩慢
  • 疲れやすい
  • 社会行動の障害
といったことのようです。『トム&ジェリー』のジェリーとは真逆といった感じのマウスを想像すればいいのでしょうか。

こうしたマウスは、抗うつ薬を投与するとちゃんと良くなるのだという。

理研には「60秒でわかるプレスリリース」というコーナー(?)もあって、分かりやすく解説されている。
研究チームは、モデルマウスのうつ状態の原因となる脳の部位を探索し、異常なミトコンドリアDNAの蓄積やミトコンドリア機能障害が「視床室傍核」という部位で顕著であることを見い出しました。(・・・)正常なマウスの視床室傍核の神経細胞の神経伝達を遮断することにより、モデルマウスに似た行動低下状態が現れることを見いだしました。これらのことは、モデルマウスのうつ状態が視床室傍核の病変によって生じていることを示しています。
いや、あんまり分かりやすくはないか。

理研で、こんな研究も発表されていた。
光遺伝学によってマウスのうつ状態を改善 ―楽しかった記憶を光で活性化―


恋愛から裏人格まで怖いほど当たる?おもしろ深層心理テスト(砂漠のキューブ)

公開日: 10/29/2015 心理テスト


立方体パーソナリティ・テストという名称で、海外のあちこちのサイトに掲載されている心理テスト(というか心理ゲームのたぐい)を紹介します。

このゲームで遊べば、自分についてびっくりしてショックをうけるようなことが明らかになるかもしれませんよ。友だちをつくるきっかけには最適!

といったような心理テストなんだそうです。

鉛筆と紙を用意してください(なくてもいいけど)。

教育の経済学と非認知能力

公開日: 10/27/2015 教育 心理学


例によってdマガジンで雑誌をぱらぱら。
「週間東洋経済」(2015年10月24日号)を読んだ。
ふだんはほとんど手に取ったことのない雑誌だ。

“「教育」の経済学”

という特集で、なかなか面白かった。

今年の6月に発売された『「学力」の経済学』(中室牧子著)という本が15万部を超えるベストセラーになっているそうで(今度読んでみよう)、「教育経済学」に注目が集まっているという趣旨の記事だった。


アメリカ人の58%が宇宙人がいると信じている(不思議現象に対する態度の尺度があるんだって)

公開日: 10/27/2015 いろいろ


dマガジンでNEWSWEEKを読んでいたら「あなたは宇宙人を信じますか? 地球外の文明を探す研究を阻むアメリカ人の信仰心」というコラムがあった。

ある調査によると、宇宙のどこかに私たち以外にも知的生命体が存在していると考えるアメリカ人は、全体の54%だったという。

反対に、宇宙人はいないと答えたのは24%。

3分の1の人は、地球のような知的生命体が生息するのに適した場所はほかにはないという理由から、そう答えた。

残りの3分の2は「人類は、神が創造したものだから」宇宙人はいないと考えているのだという。

他の世論調査では、神が一万年前に人類を創造したと考えているアメリカ人は42%にものぼるのだ。恐竜の化石なんかも、一万年前に神様がえいっとこしらえたことになっている。

宇宙人は地球に存在、世界で2割の人が肯定=調査


このロイターの記事によると、イプソスという調査会社が世界22か国の23000人に実施した調査では、宇宙人が「地球に」存在すると考えている人の割合は20%だという。
地球に存在するということは、映画の『メン・イン・ブラック』や、マンガ『レベルE』みたいに、宇宙人が人間に化けて潜伏しているということらしい。

インドや中国では、その割合が40%を超えるとのこと。
 イプソスのシニアバイスプレジデント、ジョン・ライト氏は、宇宙人の存在を信じる人の多さは、その国の人口の多さとも相関関係がありそうだと指摘。「極端に言えば、人口が少ない国なら隣人のことをよく分かるようになるのでは」と述べている。
 性別では、地球上に宇宙人がいると考えているのは男性の22%、女性の17%だった。
 また年齢別では、宇宙人の存在肯定派の多くが35歳以下だった。
19世紀、産業革命で都市化したイギリスでスウィーニー・トッド(Sweeney Todd)伝説(悪い理髪師が、客の喉を剃刀で掻ききるという都市伝説だ)が広がったのと同じく、お互い素性を知らない人々がたくさん集まると、「ひょっとして宇宙人では」「もしかすると殺人鬼かも」といった疑心暗鬼が浮かぶものなのかもしれない。

関連の事柄を検索(というかネットサーフィン)していたら、先日の日本心理学会で、

不思議現象に対する態度尺度の改訂(1) 不思議現象に対する態度

という発表があったのを見つけた。

  • UFOや宇宙人のイメージは,テレビが作ったものだ。
  • UFOや宇宙人の目撃証言を,科学的に分析するのはおもしろい。
  • もし本当に宇宙人 がいるなら,地球は滅びているはずだ。

といった項目があるようでした。


人はだまされるものだ

公開日: 10/25/2015 心理学

今週の「ほぼ日WEEKS」の言葉から。
人はだまされるものだと、思ってるほうがいいかもしれません。「ぜったいだまされない」と思っている人って、だまされた人を、笑うんですよ。だまされる人を笑う社会が、だまされる人を作っている。そんな気がするんです。——平林有里子さんが『イマサギ。いまどきの詐欺的商法』の中で
そういうものかもしれない。

「絶対だまされないぞ」
と構えていると、まわりに対して疑心暗鬼になってしまうし、
「だまされたほうが悪い」
と皆が考えるような社会は、あんまり住み良いとは感じないだろうな。

イマサギ。いまどきの詐欺的商法|ほぼ日刊イトイ新聞

対人信頼感尺度というのがあった。
  • 人は、多少よくないことをやっても自分の利益を得ようとする。
  • 人は、成功するために嘘をつく。
  • 人は、口先ではうまいことを言っても、結局は自分の幸せに一番関心がある。
  • 人は、だれかに利用されるかもしれないと思い、気をつけている。
  • 人は、ほかの人を信用しない方が安全だと思っている。
といった質問に5段階で答える尺度とのこと。

日本語版パラノイアチェックリストという尺度も、信頼感や疑い深さを測定している。「私は他人に対して用心している必要がある」「私は陰で悪口を言われている」といった項目があった。


虐待された愛着障害の子の脳は誉めても響きにくい?

公開日: 10/24/2015 虐待 子ども 心理学 心理療法



福井大学の子どものこころの発達研究センターによる報告。

反応性愛着障害(reactive attachment disorder : RAD)とは、虐待やネグレクト(も虐待の一種だけど)などの不適切な環境で育った子どもが、愛着などの親密な人間関係において不安定でややこしい行動を示すような状態を表す言葉だ。
そうした子どもは、抱っこされても視線を合わせない、近づいたと思えば、逃げたり逆らったりするといった、不安定な人間関係をもつようになる。

福井大学の研究では、反応性愛着障害になった子どもの脳は、「視覚的な感情処理に関わる部位」が小さい傾向があることが分かったのだという。また、やる気や意欲に関わる脳の部位の活動が不活発であることも判明した。こうしたことから、愛着障害の子どもは、「成果を誉める」「誉めて伸ばす」といった教育的・心理療法的な関わりが、効果が少ないかもしれないと考えられている、といった記事だった。
研究グループは、10〜17歳のRADの21人とそうでない22人の脳の断面を磁気共鳴画像化装置(MRI)で撮影。形態や働きを比べたところ、RADの子供は「視覚野」の灰白質(脳神経細胞が集まる領域)の容積が2割ほど少なかった。この部位はダメージを受けると他人の表情から感情を読み取りにくくなるといい、虐待などが脳に影響を与え、症状につながっている実態が分かった。
なんで虐待によって「視覚野」がダメージを受けるんだろう。
トラウマって、視覚優位なところがあるのかもしれない。


『「戦争」の心理学:人間における戦闘のメカニズム』(デーヴ・グロスマン&ローレン・W・クリステンセン、二見書房)

にも書かれていたけれど、危機的な状況になると、感覚器官は生き残るために必要な情報だけに集中するようになる。銃声さえも耳に入らなくなるというのだから、ほんとに目の前の重要なことだけしか目に入らなくなるのではないかな。

「目に焼きつく」のと「見たくない」「見えにくい」のは表裏一体なのだろうな、というのがこの記事を読んでの仮説。
 また、10〜15歳のRADの子供16人とそうでない20人に金銭報酬を得られるゲームをしてもらい、脳の活動を調べたところ、やる気や意欲などに関わる「線条体」の活動量の平均が、RADの子供はそうでない子供の半分以下だった。 
 こうした結果から、RADの子供は「報酬」へのモチベーションが低いとみられ、一般的な治療とは別の方法が必要な可能性が高まったという。

人間や世界に対する「基本的な信頼感」がもてないままに育ってしまったら、誉められても、ご褒美をもらっても、「どうせ報われない」「裏切られる」と思ってしまうのも、無理はないように思う。

だとしたら、どうすればそうした子どもたちに、「人間って意外と捨てたもんでもない」「生きてるってのも、悪くないことかもね」と思ってもらえるんだろう。

この二つさえあれば、大人でも子どもでも、なんとかかんとか、その人なりの人生を生きることができるんじゃないかなと思う今日この頃。

『星占いのしくみ 運勢の「いい」「悪い」はどうやって決まるのか?』(石井ゆかり、鏡リュウジ)

公開日: 10/22/2015 いろいろ 心理学 占い


石井ゆかり、鏡リュウジ著『星占いのしくみ 運勢の「いい」「悪い」はどうやって決まるのか?』平凡社、2009年

読んだ。

占星術のことはナンにも知らないので、気になったところだけ付箋を貼ってみた。


スマホをレーダー探知機にして忘れ物をなくすステッカー・ファインド

公開日: 10/21/2015 ガジェット

探しものはなんですか? 見つけにくいものですか?

ADHD(注意欠陥多動性障害)の症状チェックリスト(ASRS-v1.1)に次のような質問があった。
家や職場に物を置き忘れたり、物をどこに置いたかわからなくなって探すのに苦労したことが、どのくらいの頻度でありますか。
「あるある」という人には次のアイテムの存在は朗報、かもしれない。

人ごとではないので、ほんとに買おうかどうか迷っているところ。


ステッカー・ファインド

ステッカー・ファインド(Stick-N-Find)

http://mbridge.jp/product_page.php?id=10

ステッカー・ファインド(Stick-N-Find)というモノだそうで、500円玉くらいのサイズのステッカーとスマホのアプリがセットになっている。
ステッカーを貼りつけたものがアプリのレーダー画面に位置表示されて、どのあたりにあるかが分かるという仕組みらしい。

鍵だとか、財布やリモコンなど、なくしたら困るものにステッカーを貼っておくと、スマホでどこにあるかをすぐ確認することができる。

だいたい45メートルくらいの距離まで反応するようです。

写真を見たところでは、「ステッカー」というよりは、「ボタン」に近いんじゃないかと思うけれど、あれば便利かもしれない。

子どもやペットにつけて迷子になったときにすぐ探せる、なんて使い方もあるらしい。

とはいえ、ADHDの人は「目の前に探し物があっても」見つからないということもしばしばなので、レーダーに映ってるからといってそれを拾い上げることができるかどうかはまた別問題のような気もする。

スマホに夢中になって、何を探していたか忘れる、なんてことも起こりそうだ・・・

iPhoneを電車に置き忘れた話

そういえば、以前、通勤中にiPhoneを電車に置き忘れたことがあった。

職場のPCから、iPhoneを探すという機能で位置を確認すると、電車に乗ったままどんどん遠くに離れていくじゃないか。

時刻表と照らし合わせて、どの電車で運ばれているかを推測することができた。

結局、二つ隣りの県まで行って、折り返して戻ってきたところで電車に飛び乗って、シートに挟まっているiPhoneを回収したのだった(ちょうど仕事が終わって帰るところだった。で、同僚に、この駅に到着すると思われる時間に電話をかけて呼び出し音を鳴らしてもらった)。

その日は一年分くらいの運を使い果たした気がしました。

「高所“平気”症の子供たちが急増中? 高層マンション暮らしで怖さ薄れ…転落事故も続々と」(産経ニュース)

公開日: 10/20/2015 心理学


高所恐怖症気味なので、個人的には高いマンションで暮らしている人たちの気が知れないのだが、どんな環境でも人は慣れるらしい。山羊だって慣れる。

こんな記事を読んだ。



それによると、「高層マンションの一室などで育つことで、高いところが怖くないという『高所平気症』の子供が増えている」。

昭和60年代ごろから高層マンションで子育てする家族が増えてきた。福島学院大の織田正昭教授(福祉心理学)によると、
子供が高い場所が危険かどうかを判断する感覚は、4歳ごろまでに大人の約8割ほどのレベルまで発達するが、この時期を高層階で過ごす子供も多くなった。子供は、自分の目線の高さを基準に地面との距離を把握し、「高いかどうか」を判断する。そのため、高層階の部屋では空に近い景色は見えても地面が見えないため、高い場所が怖いと思う感覚が育ちにくいのだという。
のだそうだ。

でも昔から塀や木に登って落っこちる子はいたわけで、「高所平気症が増えた」とほんとに言っていいのかなとも思う。子どもが変わったというより、環境の変化も大きいだろう。マンションの高いところに子どもと住むなんて、何十メートルもの高さの木の上で子育てしているようなもんだ。

なんて考えていたのだが、

子どもの転落事故 どう防ぐ|NHKニュース おはよう日本

を読むと、
調査機関が、高層階に住む子どもと低層階に住む子どもとで、危険を伴う高い場所での「怖さ」の違いを調べたアンケートでは、低層階よりも高い割合で、10階以上の高層階に住む子どもの方が「怖くない」と回答。
とのことだったので、「高所平気症」あるのかな。

赤ん坊や子どもが「高さ」をどう認知するようになるのか、ということについては、エレノア・ギブソン(Elenoar J. Gibson)の「視覚的断崖」(Visual Cliff)の実験を思い浮かべた人もいるかもしれない。

乳児や動物の奥行き知覚を研究するために考案された装置だ。

台の半分が透明ガラスになっており、台の地柄とガラス越しの柄が似ている。この装置を使って、ギブソンらは、奥行きを知覚して、ガラスの手前で止まるかどうか、というテストを行なった。

eleanor j. gibson visual cliff

こちらは「視覚的断崖」の実験の映像。母親が微笑んでいると、子どもは断崖を渡ろうとする。けどみんな、「高さ」は怖がっているように見える。

 

・・・
ちなみに、サムネイル付きのリンクは、次の記事を参考にして、ShareLinkというのを使って作ってみました。




腸とストレスの不思議な関係『おしゃべりな腸』

公開日: 10/18/2015 うつ病 ストレス 身体

ジュリア・エンダース『おしゃべりな腸』岡本朋子+長谷川圭訳、サンマーク出版、2015年

原題は、『Darm mit Charme(腸ってチャーミング)』だそうです。

フランクフルト大学の医学部の学生さんで、専門は「腸」とのこと。

「サイエンス・スラム」という若手の科学者が一般の人を前に専門分野についてわかりやすくプレゼンテーションする大会で注目を浴びたらしい。1990年生まれだって。

「トイレの正しい座り方」とかウンチの見分け方など、面白いところはたくさんあるのだが、ここでは腸と脳の関係について記載されたところを紹介したい。

脳と腸の関係

ホヤという海に住む生き物がいる。
小さな脳と脊髄と、食物を出し入れする管(口と腸と肛門の原始的なものですね)がある。若いホヤは、お気に入りの場所を探して大海をさまよう。
そして、安全で暮らしやすい岩場を見つけると、そこに定着して、一生動かない。驚くのは、定着したホヤは、自分の脳を食べてしまうということ。

脳は「運動する」ためにあるので、居場所を定めたホヤにはもう必要ない器官なんだそうです。

私たち人間は、脳をありがたがっていますが、ホヤのことを考えると、実はそれほどたいしたものではないのかもしれない。

腸は「第二の脳」なんて言われることもあるけれど(ちなみに「第三の脳」は皮膚だそうです)、人間の「心の座」も脳だけじゃなくて腸にあると言ったっていいんじゃないか。
私たちの「自我」は脳にだけあるのではありません。
とジュリアさんは書いている。腸には身体のほかの部位とは比べものにならないほどたくさんの神経が集まっていて、神経ネットワークも非常に発達している。「腸脳」だとか「腸脳力」という言葉で説明されることもあるのだそう。腸能力ってなんだかすごいですね。「腸能力少年」とか。

お腹の調子と気分は深く関係している。
「生まれてすぐ、腸と脳はパートナー関係を結びます」とのことで、「腸からのシグナルは、脳のさまざまな部位に届けられ」る。
腸からの情報は、「自己認識、感情の処理、道徳観、不安、記憶、動機付け」などに関わる脳の部位(島皮質、大脳辺縁系、前頭前皮質、扁桃体、海馬、前帯状皮質)に伝わっているのだそうだ。

腸の不調とストレス、うつ病

腸はたとえば飲み過ぎたときの不快感だとか、何か異常が起きたときの痛み、お腹がいっぱいになったときの満足感などを脳に伝える働きをもっているが、重要ではない情報は普通はわざわざ届けない。

ところが、腸が過敏になると、腸から脳への連絡がおかしくなるのだそうだ。

過敏性腸症候群の患者は、お腹がゴロゴロしたり不快になったときに、過敏に反応しすぎてしまう。そして、腸と脳が最もよく伝え合う情報は「ストレス」だという。

人体に存在するセロトニンの95%は腸でつくられているので、「うつ病の原因は頭ではなく、お腹にあるのかもしれない」とのこと。腸の不調が不安やうつを悪化させるのであれば、腸を整えることも大切だろう。

腸内細菌が「不安」「うつ病」「気分障害」の治療にも、「サイコバイオティクス」に動き|Medエッジ

という記事によると、腸内細菌と脳の相互作用を利用して、うつ病や気分障害を治療しようという試みが研究されているようだ(「サイコバイオティクス」というんだって)。
腸内細菌叢は、住処を拡大するために人々が社交的である必要があり、そのために脳に働きかけるように進化してきたのかもしれない
なんて、なかなか面白い説だと思う。

また、「無菌環境で成育して腸内細菌叢を持たないネズミが他のネズミを認識する能力に欠ける」ということも発見されているらしい。「腸内細菌叢を邪魔してみると、人の不安やうつ病、自閉症に似た行動が誘発された」のだと。

同じく

善玉の微生物を含んだ食物を取ると悲しい気分を軽くしてくれる、腸内細菌が関係する|Medエッジ

には「善玉の細菌を食べることで悲しい気分に関連する負の思考を押さえる役割を果たす」と紹介されている。

私たちの心は脳じゃなくて腸、さらには腸内の微生物がコントロールしている、となってくるといったい<私>ってなんでしょうね。


おしゃべりな腸




Giulia Enders - Darm mit Charme - Buch - start


デジャヴ(既視感)と記憶の心理学

公開日: 10/18/2015 心理学


デジャヴ(既視感)とは

初めての場所を歩いていて、「あれ、ここには来たことがあるぞ」と感じることがあります。

あるいは、誰かと話をしている最中に、
「この場面はすでに体験したことがある」
という感覚をもつこともあります。

「このあときっと、彼がこんなことを言うんだった」
と「思い出して」いると、そのとおりのことが起こったりします。

デジャヴ(Deja vu)と呼ばれている体験で、既視感とか既視体験などと訳されています。
初めてのことなのに、まったく同じことが前にもあったと強く確信するような体験です。

こんな不思議な体験が続くと、
「ひょっとして自分だけ時間がループしているんじゃないか?」(そんな映画がありましたね。なんだっけ、トム・クルーズが出てた)
「俺って未来が予知できるのかも。宝くじ買わねば」
「運命はすべて決定されているのか」
なんて考えてしまいます。

はたしてデジャヴは、未来予知やタイムループといった超常的な現象と関係しているものなのでしょうか?

Psychology Todayの"What Is Déjà Vu?"という記事には、
the experience of déjà vu is just an extreme reaction of the system that your memory uses to tell you that you are in a familiar situation.
「デジャブ体験とは、あなたが似たような状況にいるということを知らせる記憶のシステムが極端に反応したものだ」と書かれていました。

ループした時間の中に閉じ込められている

すべての景色に見覚えがある「デジャヴ」に7年間苦しむ男性 | livedoor NEWS

というニュースでは、イギリスの医学論文『Journal of Medical Case Reports』に報告された奇妙な事例が紹介されていました。
23歳の男性は、2007年以来、生活のなかで体験するありとあらゆる出来事に、デジャヴを感じてしまうようになったというのです。

男性はもともと強迫性障害を患っていたそうですが、大学入学の後、症状が悪化し、デジャヴ体験が増えてきたのです。
そのうち一日中、すべての出来事に既視感が伴うようになり、「自分はループした時間の中に閉じ込められている」と苦しむようになってしまいました。
旅行をしても人と話しても、テレビやラジオをつけても、「前にも見たことがある」と感じるというのは、不思議を通り越して苦痛な体験になってしまうのではないでしょうか。

デジャヴと精神疾患

デジャヴという言葉は、フランスの心理学者エミール・ブワラックによって1917年に提唱されました。フランス語で、「すでに見たことがある」といった意味も言葉です(ちなみにデジャヴとは反対に、見慣れたはずなのに初めてのように感じられる現象を「ジャメヴ(未視感)」と言います)。

デジャブ自体は、多くの人が普通に経験することで、健常者でも3分の2くらいは体験したことがあると報告します。
わりと一般的な体験なんですね。
ただ、先の事例のようにあまりに極端になると、生きづらくなってしまいます。
また、他の精神疾患の症状と関連して、デジャヴが現れることもあります。

『解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理』 (ちくま新書) には、解離性障害や離人症との関連で、「解離の患者はこのデジャヴュを幼少期から頻繁に体験していることが多い」と述べられていました。

解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理 (ちくま新書)

統合失調症の患者がデジャブを体験しやすいなんて話を聴いたことがありますが、実際はどうなんでしょう?

Déjà vu experiences in patients with schizophrenia

という論文によると、
The patients with schizophrenia had déjà vu experiences less frequently (53.1%) than did the nonclinical subjects (76.2%). 
とのことなので、統合失調症だからデジャヴが多いというわけではなく、むしろその体験は少ないと言えます。
一方で、
 However, the experiences of the patients tended to be longer and more monotonous. The patients often felt alert, oppressed, and disturbed by the experiences. They appeared to have the experiences under unpleasant mental or physical states. 
統合失調症者のデジャヴはより長く、単調に続き、油断できない感覚や、圧倒され、動揺させられるような体験となりやすいようです。
また、てんかんなどの脳の病気によっても、デジャヴが起こりやすくなることがあるそうです。

解離性障害や離人症などは、ストレスと関連して症状が悪化することがあるので、デジャヴで悩んでいるときも、ひょっとしたらストレスが大きい状況にあるのかもしれません。

デジャヴはなぜ起こるか?

デジャヴという現象はなぜ起こるのでしょうか?

日本心理学会の「心理学ふしぎふしぎ」というコーナーにまさにその問いに対する回答があったので、紹介します。

Q14.デジャビュ現象はなぜ起こるのですか? | 心理学ふしぎふしぎ
デジャビュの起こる原因の1つは,記憶における類似性認知メカニズムの働きです。たとえば,私たちが,ある経験をする(たとえば場所を訪れる)ときには,類似した過去経験が自動的に想起されます。そのとき,現在の経験と過去経験の類似性が高いほど,既知感が高まります(未知感は逆です)。ここで,デジャビュ現象は,とても強い既知感があっても,(エピソード記憶や関連知識などに基づいて,たとえば「この地方,この場所に来たことはない」と)未経験であることを認識している点がポイントです。
こんな記憶のメカニズムが、デジャヴを引き起こしているようです。

そういえばトム・クルーズ主演の次の映画も、デジャヴっぽいテーマといえなくもないです。

オール・ユー・ニード・イズ・キル [Blu-ray]

表情から嘘を見抜く? 人は言葉より行動で嘘をつく

公開日: 10/16/2015 心理学


卒アル写真で将来はわかる 予知の心理学』(マシュー・ハーテンステイン著、森嶋マリ訳、文藝春秋、二〇一四年)

続き。

第4章「嘘をつく奴の顔はここが違う」

マーク・トゥエインはこう書いたそうだ。
誰もが嘘をつくーー毎日、毎時間、起きていても、寝ていても。夢みるときも、幸福の絶頂でも、悲嘆にくれながらも。『嘘術の崩壊』
私たちは、平均すると一日に二回(少なくとも一度は)、人生を通じておおよそ二万八〇〇〇回の嘘をつくことになるんだそうだ。

Netflixで『ライ・トゥ・ミー Lie to me』を見つけたので、なんとなく視聴しつつ、本を読み進める。このドラマは、表情に関する研究で有名な心理学者のポール・エクマンがモデルになっている。


「民法の再婚禁止規定は違憲」 との訴え、他の国ではどうなの?

公開日: 10/15/2015 子ども 社会


「民法の再婚禁止規定は違憲」 20代男女が国を提訴

日本では、女性だけに離婚後6ヶ月は再婚できないという「再婚禁止規定」があるが、それは違憲ではないかとの訴え。
女性の離婚が成立しないまま、2人は一緒に暮らし始め、今年5月、息子が誕生しました。その後、女性と夫の離婚が成立。晴れて夫婦になろうと、婚姻届を出すため、役所に向かうと、驚きの事態が待っていました。
 「『結婚できません』とひと言、ズバッと言われた。息子もできて、結婚もしたいのにできないし、何でかわからなかったです」(婚姻届が受理されなかった男性)
 「女性は離婚後6か月間、再婚を禁止する」との民法の規定。さらに民法には、「女性が婚姻中に妊娠した子は戸籍上の夫の子」との規定があり、「出生届を出せば息子は前の夫の戸籍に入る」と告げられたのです。
「再婚禁止規定」は、子どもの父親が誰か分からなくて争いにならないようにという理由で明治時代に定められたそうだけれど、女性だけにこうした負担を課すのは不平等だし、DNA鑑定などで親子かどうかは分かるのに、このような規定は時代遅れだろう。

第一印象もしくは見た目で性格は予測できるか? 『卒アル写真で将来はわかる』

公開日: 10/15/2015 心理学


最近、初めて出会った誰かをひとり、思い浮かべてください。

その人の第一印象って、どんなのでしたか?

感じいい? 親切そう? それともちょっといじわるな感じだったでしょうか。
あなたの感じた第一印象って、当たってると思いますか?

情緒不安定な人は創造的か?

公開日: 10/13/2015 心理学


創造的な人たちは、情緒不安定さを伴っているということが研究で分かったのだそう。
ネガティブにくよくよ考えるのも、悪いことばっかりじゃないってことだ。

心理学におけるマインドフルネスの現れ

公開日: 10/13/2015 マインドフルネス 心理学 心理療法 瞑想



『アメリカン・サイコロジスト誌(>American Psychologist)』で、「基礎および臨床心理学におけるマインドフルネスの現れ)」というテーマの特集が掲載されていた。;
Special Issue: The Emergence of Mindfulness in Basic and Clinical Psychological Science
American Psychologist 2015  Volume 70, Issue 7 (Oct)
アブストラクト(というかほぼタイトル)だけナナメヨミ。


田中泯+松岡正剛『意身伝心 コトバとカラダのお作法』

公開日: 10/10/2015 アート 身体

田中泯、松岡正剛『意身伝心 コトバとカラダのお作法』春秋社、二〇一三年

読了。

ダンサーの田中泯さんと、編集者(?)の松岡正剛さんの対談本。

このお二人のくぐってきたであろう濃厚な時間のことを知らないので、正直何を話しているかよく分からないところもあるのだけれど、読んでいてドキドキしてくるようなコトバの(たぶんそれだけじゃない)やりとりが伝わってくる。

たくさん付箋がついたので、いくつか抜き書き。
一つの音だけで、うーーーって何十分も声を出し続けてみる。これだけですごいトレーニングになりますよ。たった一音を出し続けて、そのときに自分のカラダはどういう状態になるかを感じる。
やってみよう。いろんな「うーーーーっ」がありそうだ。
ぼくが裸体で踊っていたときは、それだけで話題になったりしましたが、でもそれが自信になるなんてことは全然なかった。むしろぼくは自信というところから踊りが踊れるはずはないと思っていたし、自信がない方がおもしろいと思ってきた。いまでもそうですよ。解き放れたいとも思っていないし、リラックスしようがカチカチになってしまおうがかまわない。どちらがよいかなんてことをつべこべ考える必要もない。
「自分」がないところから踊りを踊る、ということでもあるのかな。
自信のなさとか、失望とかそういうものを抱えているほうがおもしろいですよ。「ああ、これは香ばしい失望だよな」といったところにふっと出て行く。
「香ばしい」って、こういうふうに使うといいのか。「香ばしい絶望」とか「香ばしい失恋」とか。
日本では「狂ふ」とか「ただ狂へ」とあれば、ゆっくりスピニング・ダンスをすることだったんです。「をどる」はジャンピング・ダンス。「舞ふ」は座り位置や立ち位置から動き出すことですね。
狂うというのは、くるくる回るということに由来しているのだろうか。くるくるパーとかくるくるQ(Qが大事って言った先生がおられた) にも、回転運動が入っている。踊りというのは、トランス(忘我)と関わりが深そうだから、そもそも「狂気」とずいぶん近い営みなのかもしれない。「踊る」と「舞う」の違いってなんだろう。
 変わらずに存在する中心ではなくて、中心はたえず偏在している。会話というのもそうですよね。中心と中心が交わしているんじゃなくて、そのあいだに会話が積みあがっていく。あるいは陳列されていく。それは言ってみれば、生命活動そのものでもある。
ここで言われている「中心」を「自我」とか「主体」と言い換えてもよいかもしれない。自我と自我が会話したり、踊っているのではなくて、あいだになにかが動いている。
見てくれた人が自分の表現を始めることによって、やっと踊りになる。だから、動いている人だけじゃなくて、見ている人も実はダンサーなんですよ。これは土方さんの言い方ですけど、踊りというのは、そのあいだに産まれていくんです。そうやって何もかもが動いているなかで、カラダが触れたり離れたりしていることが踊りであって、それが身体気象なんです。
男性的なものは先端性だと思うんですよ、フラジャイルなものもストロングなものも、先っぽ型だと思う。何かつねに桟橋や橋のぎりぎりのところ、ペニスの先のところ、目の先のところというような先端性に何かが出る。これに対して女性的なもの、たとえば女性たちの才能なんかを見ていると、内奥を感じる。
かつて読んだ『フラジャイル』はとっても刺激的な本でした。
踊りって所有できないものですよね。「私の踊り」という言い方をすることもあるけれど、踊っているそばからそれはもう空間のものになり、人のものになっていく。
たとえば、「命」というものが女性の体から産まれてくるという驚きとともに「踊り」が生まれてきたんじゃないか。おそらくそこに何かきっかけがあってコトバが出てきたんだろうと思うんです。そして踊りはおそらくコトバの出現を待ちに待っていたんじゃないか。そうして踊りが生まれコトバが生まれると、次に演劇というものが生まれてくる。
海を見て驚いて「うーみー!」とか言ったから「海」というコトバができた的な?  いや、身振り手振りや踊りが先にあったというのはそのとおりではないだろうか。
「存在感」というものは、存在しているということだけじゃない。ということは、見えてはいないけれども、何かがぼくの中でうごめいているから、それを感じるということと同時に、あなたにも何か合点するものが内側にうごめいているから、それがつながって「存在感を感じる」というふうに考えられませんか。
カール・ロジャーズのいう「プレゼンス」も、こういうことなんだでしょうね。うごめいているものとうごめいているものが共鳴しあうような感覚。


『サポーティヴ・サイコセラピー入門―力動的理解を日常臨床に活かすために』

公開日: 10/10/2015 心理療法

ヘンリー・ピンスカー『サポーティヴ・サイコセラピー入門―力動的理解を日常臨床に活かすために』岩崎学術出版社、二〇一一年

読了。

アリックス・ジェネラス「アスペルガー症候群である自分の内面との会話をどのように学んだのか」(TED)

公開日: 10/08/2015 ガジェット 発達障害

TEDでアリックス・ジェネラスというアスペルガーをもつ女性の講演を観た。
アリックス・ジェネラスは無数のアイデアを持つ若い女性です。科学で賞を取ったり、新技術の開発を支援したり、面白い(ビデオをご覧ください)ジョークを飛ばしたりします。アリックスは自閉症スペクトラムの1種であるアスペルガー症候群で、コミュニケーションにおける基本的な社会能力に問題があります。そのため、外の世界に自分の考えをどうやって伝えるればよいのか、長年懸命に学んできました。この個人的で愉快なトークで、アリックスは自分の人生と、より多くの人々が自分の大きなアイデアについて話せるツールの構想について話します。

とても興味深い講演でした。
アスペルガーの人たちのなかにはとても優れたアイデアをもっている人がいるけれど、コミュニケーションの難しさからそのアイデアが共有されないという問題がある。また、一般の人たちの誤解や偏見も、アスペルガーの人が理解されない原因のひとつだ。
アリックスさんは、アスペルガーや高機能自閉症などの自閉症スペクトラムの人々を支援するためにAutismSeesという会社を立ち上げて、Podiumというアプリを作った。
自閉症スペクトラムの人が、自分について知る手助けや、コミュニケーション能力の向上を支援するアプリとのこと。日本語版も出るといいですね。

Podium

ところで、視覚で思考するタイプの彼女はよく明晰夢を見るのだそう。
言われてみると、アスペルガーの人が明晰夢を見る頻度って高そうな気がするが、そういった研究ってあるのだろうか。

と思ってGoogle Scholar で調べてみたけど、見つけられなかった。

教えてGooにあった、
睡眠中に見る夢が、現実と区別出来ずに困っています
という質問では、30代の女性が次のように書いていた。
昔から眠っている時はとにかくよく夢を見るタイプで、目が覚めても夢の内容をしっかり覚えていて、途中で起きてしまっても夢の続きを見ようと思えばいくらでも見られます。
質問というか、相談は、タイトルのとおり、夢と現実の区別がつかなくなってトラブルになってしまうといった内容だったが、回答者とのやりとりのなかで、質問者は成人してからアスペルガーと診断されており、医師からは自閉症スペクトラムの人にしばしば見られるタイムスリップ現象やフラッシュバックではないかと指摘されたとのことだった。

Connection Between Lucid Dreaming And Aspergers?
「明晰夢とアスペルガーの間の関連は?」
というページでは、アスペルガーの当事者が、こんなアンケートを試みていた。
116人の回答で、

しょっちゅう明晰夢を見るという人は30%
ときどき見るという人は40%

という結果らしい。

Dream Content Analysis in Persons with an Autism Spectrum Disorder
「自閉症スペクトラム障害の人の夢内容の分析」
という論文のアブストラクトだけ読むと、自閉症スペクトラムの人はコントロール群と比べて夢を思い出すこと自体が少なく、悪夢や感情を体験することも乏しかったそうだ。
またREM睡眠中に起こして夢を報告させるという実験でも、自閉症スペクトラムの人の夢は短くて、物や人物もあまり登場せず、社会的相互作用や活動、感情なども乏しかったと報告されている。
明晰夢のことは書かれていなかった。

高機能自閉症の人と、アスペルガーの人とではまた夢体験も違うんじゃないかという気がする。



にほんブログ村 哲学・思想ブログ 心理学へ
にほんブログ村

恐怖を克服するための戦術的呼吸と事後報告会

公開日: 10/08/2015 ストレス トラウマ 心理学 戦争

グロスマンとクリステンセンによる『「戦争」の心理学:人間における戦闘のメカニズム』から、「戦術的呼吸法と事後報告会」に関する覚書。

「戦術的呼吸法、事後報告会のメカニズム―記憶と感情を切り離す」という章(第二十一章)。


本書で何度も言及されている「戦術的呼吸法(Tactical breathing)」と、銃撃戦などの高度なストレス状況の後で行われる「事後報告会」について書かれている。

まず、戦闘(に限らず高いストレス状況)が終わった後の生理的反応について説明される。

戦闘後の生理的反応

直後に見られる反応

身体の震え、発汗、寒気、吐き気、過呼吸、めまい、のぞの渇き、強い尿意、下痢、胃の不調、神経過敏など

その夜

睡眠障害や悪夢

その後、数日間

何度も思い出す、ああすればよかったとくよくよする、間違ったことをしたように感じて自信を失う、怒り、悲しみ、無力感、不安、疲労、自意識過剰や妄想、気分の高揚と罪悪感、無感覚や他人とのあいだに距離を感じること、注意力や記憶力が損なわれる

こうした症状の一部、あるいは全部が表れることもあるし、表れないこともある。いずれも、まったく正常な反応である。

事後報告会

たぶん、Debriefingが原語。

「危機的事件後の健忘」について言及されている。

集団で、事後報告会をすることで、「記憶の再構築」が起こる。ほかの参加者からの情報で、自分の記憶を作り直したり、足りない部分を埋める。恐ろしい事件の後で、正常な生活を取り戻すことを助けてくれる。
苦しみの共有は苦しみの割り算であり、人は抱え込んだ秘密のぶんだけ病むのである。事後報告会は、互いに助け合ってトラウマ的事件を乗り越えるために人々が集まり、秘密を打ち明け、苦しみを共有するチャンスだ。p.528
事後報告会を行う目的は、記憶と感情を切り離し、別々に分けることで、その事件を思い出しても交感神経系の興奮が起きないようにすることだ。

この、ディブリーフィングという手法は、日本には阪神・淡路大震災の後、海外から支援に訪れた精神科医やサイコロジストによって導入された。ところがその後、ディブリーフィングの有効性に疑問を示す研究結果がいくつも示されている。
災害や事件の後に、心理的なディブリーフィングを行なうことで、かえってトラウマの侵入や回避の症状の自然回復のプロセスを疎外してしまうといった見解もある(災害直後に心理的ディブリーフィングを行なうことの害について)。

安全が確保されているか、どの時期や段階で行なうか、どんなメンバーで実施するかといったことも影響しているだろう。

戦術的呼吸法

怒りや恐怖といった交感神経系の反応のことを、グロスマンらは「子犬」と表現している。事件の記憶がよみがえると、交感神経系の興奮も起こる。つまり子犬が興奮して、吠えたり暴れたりしはじめる。子犬は心の部屋のあちこちを飛び回り、「網戸」を破ってしまう。早く網戸の穴をふさがないと、子犬が飛び込むたびに穴が広がって、ふさぐのがどんどん難しくなる。つまり、記憶がトリガーになって、交感神経系の興奮が起きやすくなるというわけだ。


戦術的呼吸法(タクティカル・ブリージング、コンバット・ブリージングなどと呼ばれることもある)は、その子犬に「引き綱をつける」ような方法だ。

高いストレス状況で、戦術的呼吸法を行なうことで、交感神経系をコントロールすることができる。すなわち、心臓の激しい動悸を鎮め、手の震えをやわらげることができるのである。

身体の活動は、「体性神経系」と「自律神経系」に分けることができる。体性神経系とは、手を挙げるとか、歩くといった意識的にコントロールできる行動に関わる。自律神経系は心臓の鼓動などの意識されない身体の活動を担っている。呼吸とまばたきは、ふだんは自律神経系の活動だが、意識的にコントロールすることもできる。というわけで、呼吸は体性神経系と自律神経系の架け橋だという。
恐怖の先には暗黒面(ダークサイド)がある・・・恐怖は怒りにつながり、怒りは憎悪に、憎悪は大きな苦しみにつながる。ヨーダ
という『スター・ウォーズ』のジェダイ・マスターの言葉が引用されていた。

やり方は、非常にシンプルだ。
いろいろなバージョンがあるらしいが、「4つ数える方法(フォーカウント・メソッド)」というものが紹介されている。

鼻から4秒吸う、4秒止める、口から4秒吐く、4秒止める

という呼吸を何回か繰り返すというやり方。腹式呼吸で行なうのがポイント。

ヨガや武道にもいろいろな呼吸法があるけれど、いざというときにはシンプルな方がやりやすいだろう。


にほんブログ村 哲学・思想ブログ 心理学へ
にほんブログ村

誕生日で占うメンタルヘルス。冬生まれ、早生まれは自殺のリスクが高い!?

公開日: 10/07/2015 いろいろ 心理学 精神医学

「占いと心理テストの違いは何でしょう?」

とある女性に聞いたことがある。

「占いは雑誌のいちばん最後に毎号載っているけど、心理テストは真ん中あたりの特集」
なんて答えがあった。



雑誌の後ろに掲載されているのは
「今月のかに座は金銭運はありませんが、思わぬ出会いがあるかもしれません」
といった占星術などが多い。

Can Your Birthday Predict Your Mental Health? | Psychology Today
「誕生日はあなたのメンタルヘルスを予想できる?」
という記事を読んだ。

『「戦争」の心理学:人間における戦闘のメカニズム』(デーヴ・グロスマン&ローレン・W・クリステンセン、二見書房)

公開日: 10/04/2015 トラウマ 心理学 精神医学

「戦争」の心理学:人間における戦闘のメカニズム』(デーヴ・グロスマン&ローレン・W・クリステンセン著、安原和見訳、二見書房、二〇〇八年)

読了。


マッチョな本だと思う。

訳者あとがきにも記されているように、グロスマンの前著『戦争における「人殺し」の心理学』では、「兵士は(意外と)人を殺せない」ということがテーマになっていた。

第二次世界大戦時には、わずか15〜20%の兵士しか、敵に向かって発砲していなかったのである。
それくらい、人は本来、他人を攻撃することをためらう生きものなのだ。

戦争を指揮している偉い人はそれでは困るので、なんとかして発砲率を上げようとした。
行動主義の心理学などを応用した訓練が行なわれた結果、ベトナムでは発砲率は90%を超えるまでとなった。

「よかった、これで我が軍の兵士たちは勇敢に戦うことができる」

と政治家や軍の将校は思ったかもしれない。

けれども、発砲率の上昇(つまり、兵士がより多くの敵を殺せるようになること)は、深刻な副作用をもたらし、兵士の(PTSDをはじめとした)精神的な失調が増えることとなった。

第二次世界大戦と朝鮮戦争では、戦闘によって命を落とした兵士よりも、精神的外傷のために前線を脱落した兵士の方が多かった。第二次世界大戦でも、50万人を超える兵士が精神衰弱のために脱落したといわれている。

戦闘が昼も夜も続く状況に何ヶ月もさらされるというのは、20世紀に特有の現象で(それまでは夜戦はめったになかった)、そのために精神的なダメージが大きくなったのだという。たとえば、ノルマンディ上陸作戦では「後方」というものが存在せず、絶え間ない戦闘が2ヶ月間続いた。戦闘が60日〜90日昼夜続くと、兵士の98%がメンタルに壊れてしまうのだという。

グロスマンの関心は「人を殺しても精神を病まない兵士を育てるにはどうしたらいいか」というところに向く。

本書では、まず、戦闘という極度のストレス状態で、人間の心と身体にどんな反応が生じるのかということが詳しく論じられている。

生理的覚醒・興奮の度合いは、心拍数の増加や運動能力の低下などと関連して、「白の状態」「黄の状態」「赤の状態」「灰の状態」「黒の状態」と名づけられている。

心拍数が1分間に115回〜145回になる「赤の状態」は、瞬間的な認識や反応、運動能力などが向上し、戦闘には最適なレベルだが、微細な運動能力は低下する。
腹が立って仕方がないときに、折り紙を折るというような細かな作業はできなくなるものなのだ(そうか、だったらアンガーマネジメントの方法として「腹が立ったら鶴を折る」なんてのもありかもしれない)。だからこそ、銃器の操作のような複雑な作業は、繰り返し訓練して身体に覚え込まさなければならない。

それよりさらに生理的に覚醒する「灰の状態」や「黒の状態」になると、時間感覚が麻痺し、周辺視野は消失し、頭は働かなくなる。視覚も聴覚も、生存に本当に必要なものだけに限られるのだ。この状況になると大小便の失禁も一般的なことだという。

そして、これが生理的な反応であるならば、学習や訓練によって常に「戦闘に適切な」レベルの覚醒水準を保つことができればいい。そうすれば、戦闘後のPTSDの発症も抑えることが可能だろう。

こう、グロスマンらは考える。

古代ギリシアの軍隊指揮官の手紙が引用されていた。
送り込まれた兵士のうち、一〇〇人に一〇人は足手まといです。八〇人は標的になっているだけです。九人はまともな兵士で、戦争をするのはこの九人です。残りのひとりですか。これは戦士です。このひとりがほかの者を連れて帰ってくるのです。p.303
現代の心理学や生理学の知識を活用すれば、「戦士」を増やすことができるだろうというわけだ。

本書には、羊と狼、そして牧羊犬というたとえが繰り返し登場する。

あるベトナムの退役兵の言葉に由来しているという。

「社会の成員はほとんどが羊なんだ。温和でやさしい生産的な人間で、事故でも起こさないかぎり人を傷つけることはない」

私たちの多くは、羊だろう。
戦争のような極端なストレス状況に置かれると、容易に混乱し、傷つき、損なわれてしまう。グロスマンが前著『戦争における「人殺し」の心理学』で論じていたように、多くの人間は同胞を殺すことをひどく嫌悪する。

一方で、「情け容赦なく羊を食い物にする」狼がいるという。

羊たちは、普段は狼の存在など忘れているし、否認すらしている。

何かが起こったとき、羊を守るのは「牧羊犬」の役割だ。
兵士や警察官は牧羊犬として「羊の群れを守り、狼と戦うために生きている」。

(狼を悪役の代名詞として用いるのは、西洋の悪い伝統だと思うけれど)

そして、グロスマンはこう述べる。
戦闘は多くの死をもたらし、多くの破壊をもたらす。それだけでもうたくさんだ。戦闘経験のために、終わったあとまで自分を苦しめるのは狂気の沙汰である。年齢が高くなればなるほど、この合理化は容易になりやすい。人生経験を積んで精神的に成熟しているなら、それが助けになる。しかしなにより重要なのは、精神的に備えをすませておくことだ。前もって戦士精神を身につけ、心に防弾服をまとうことである。p.289
心理学や生理学の知識、戦術的呼吸法(1)のようなストレス対処法、さまざまな戦闘シミュレーション(2)といったものが、この「心の防弾服」となるのだという。

グロスマンの言う「合理化」や「戦士精神」は、ほとんど「信念」や「信仰」に近いものさえ感じさせる。
なんらかの「正義」を信じているからこそ、恐怖を克服し、戦いに挑むことができるということなのだろう。
他方では、911のテロリストや神風特攻隊を「狂信的」と断じているあたりは、グロスマンの主張にも、矛盾を感じるところがある。

立場や文化が違えば、「正義」もまた異なるというような視点は、戦闘にはあまり役に立たないのかもしれない。

また、PTSDに関して、「PTSDは癌というより、太りすぎのようなものだ」(p.480)と述べて(重症の患者がいることを否定はしていないが)いるが、これも先に論じていたことと矛盾してやしないかと思った。

戦争の心理学


(1)戦術的呼吸法(tactical breathing):コンバット・ブリージングとも。警察官や兵士が、銃撃戦などの高いストレス状況下で、身体反応や判断力を取り戻すための呼吸法。鼻から4秒吸う、4秒止める、4秒口から吐く、4秒止める、という4カウント法などがよく用いられている。

(2)戦闘シミュレーション:以前は、「ダックハント」という任天堂のカモ狩りのシューティングゲームが多目的戦闘シミュレーターとして訓練に用いられていたらしい。ほんまかいな。暴力的なゲームが、青少年の暴力的行動に与える影響についても、本書で詳しく論じられていた。


デーヴ・グロスマン中佐、こんな感じの人らしい。軍人さんらしいですね。



【関連】


にほんブログ村 哲学・思想ブログ 心理学へ
にほんブログ村


Facebookによる感情操作と「スタンフォード監獄実験」「ミルグラムの服従実験」

公開日: 10/01/2015 心理学

Facebookがユーザーに秘密で感情操作の実験

ぜんぜん知らなかったのだけど、昨年、こんなことが話題になったらしい。

Facebookによるユーザー感情操作実験の倫理性|Tech Crunch

それによると、2012年頃、Facebookがユーザーに秘密で感情操作の実験を一週間にわたり試み、そのことで非難が集まったという。
この研究は、ユーザーのニュースフィードの内容が、ユーザー本人の感情形成に影響を与えるかどうかを発見することを目的とし、歪曲されたコンテンツを見た後の投稿内容のトーンを測定することによって判断するものだ。
なるほど。フィードに楽しい記事ばかりがならぶのと、暗い記事で埋められるのでは、ユーザーの感情体験や、その後の投稿行動にも違った影響を与えるというのはありそうなことだ。
70万人近いFacebookユーザーが、ポジティブあるいはネガティブに偏ったコンテンツを見せられた。研究の結果、ポジティブなニュースフィードを与えられたユーザーはよりポジティブな内容を投稿し、ネガティブなニュースフィードを与えられたユーザーはネガティブな内容を書き込んでいたことがわかった。
との結果とのこと。

まあ、ありそうな結果ではあるが、問題は了解なくこうした実験が行なわれたというところ。

George Orwell,"1984" Big brother
George Orwell,"1984"

ミルグラム、ジンバルドー、Facebook

「服従から感染へ:ミルグラム、ジンバルドー、そしてFacebook実験におけるパワーの言説」
Timothy Recuber,
From obedience to contagion: Discourses of power in Milgram, Zimbardo, and the Facebook experimentResearch Ethics 


という論文の、例によってアブストラクトだけ読んでみた。

そもそも、google scholarで"prison experiment"に関する最近の研究を検索してみたら上の方に出てきて、その流れで Facebook experiment について知ったのだった。

Facebookの感情操作実験と、ミルグラムの服従実験、ジンバルドーによるスタンフォード監獄実験には、確かに共通点がある。いずれの実験も、人間を対象とした研究の規範を犯している。しかしそれ以上の、本当の共通点は?

ミルグラムやジンバルドー、Facebookによる実験は、パワー(権力)というものが現在、どのように捉えられているかということについてなにがしかを明らかにしたのだ。

三つの実験はどれも、本質的には、研究者が被験者の感情や行動をどれくらい変化させることができるかという能力を測定している。

けれどもFacebookの実験は、他の二つと比べてこのような意図を隠し、この実験で動いているパワーの行使を不自然でなく見せようとしている。パワーをより見えないものにしているという点で、ずっと狡猾だと著者は述べている。

Facebookが「ビッグ・ブラザー」としてわれわれを監視したり、感情や行動を操作するような時代なのだろうか。

以下は、『コンプライアンス 服従の心理』という映画の予告編。
アメリカのあるファーストフード店で店長を務めるサンドラのもとに、警察官と名乗る男から電話が入る。男は女性定員のベッキーに窃盗の疑いがあると言い、サンドラに対してベッキーの身体検査を命じる。警察官の言うことならばと指示に従ったサンドラだったが……。
というストーリー。




ミルグラムの権威への服従実験が映画化されてた
『スタンフォード監獄実験』再び映画化、3作のトレイラーを見比べてみる


【関連本】


ルシファー・エフェクト ふつうの人が悪魔に変わるとき 服従の心理 (河出文庫)

服従実験とは何だったのか―スタンレー・ミルグラムの生涯と遺産死のテレビ実験---人はそこまで服従するのか