スキップしてメイン コンテンツに移動

なぜ多くの患者は認知行動療法を早くにやめてしまうのか

「なぜ多くの患者は認知行動療法を早くにやめてしまうのか」
Why Many Mental Health Patients End CBT Early|Psych Central News

という研究。the Journal of Clinical Psychology に掲載されたとのこと。


認知行動療法 (CBT) の予定されたコースを終える前にドロップアウトしてしまう患者が多いことはよく知られている(ある研究によれば、半分近くが中断事例だという)。

それはなぜだろうか?

ということで、Partha Krishnamurthy博士らが、不安のための認知行動療法の治療を受けている患者たちを対象に調査を行った。

CBTは宿題が出るから、それができなかった患者さんが「先生に叱られるかも」と気にして行きにくくなるのかと想像していたけれど、研究では違う結果だったらしい。

調査から分かったのは、

  • 早く回復した患者
  • ベースラインの不安が高い患者

はドロップアウトする率が高かったということ。

「発見の肝は、回復のレベルよりも回復のスピードだと考えています。始めたときと比べて早く良くなるほど、患者は治療をやめる傾向があるのです」とKrishnamurthy博士は言う。

("the heartbeat of the finding"は、直訳すると「発見の鼓動」となるけど、どう訳したらいいのかな)

また、精神疾患にまつわるスティグマも、ドロップアウトに寄与しているだろうとのこと。「私は良くなったのに、なんで治療を続けなきゃいけないの?」と考えるのはムリもない。

従来の意思決定の研究では、患者は改善しつづける限りは治療に通うと考えられてきた。
けれども新しい研究では、どうもそうじゃないらしいことが明らかになった。

患者は良くなってきたと体験しはじめると、治療を続けることの社会的、情緒的、経済的、時間的コストと比べて、もっと良くなりたいという願望はあまりはっきりしなくなってくるのだそう。

もともとの不安のレベルが高い患者も、ドロップアウトしやすいが、それは「治療が必要だ」と決定する能力が病気によって影響されているからだと考えられている。

不安が高すぎる人たちは、リラクセーションや薬物療法といった即効性のある方法の方がよいだろうとのこと。

ドロップアウトを減らすには、続けるとメリットがあるような方法がいいかもしれないと提案されていた。たとえば、治療をある程度やりとげたら患者の自己負担が減るというような経済的なインセンティブだって。

ちょうど、岡野憲一郎先生がブログで「治療の終結」についてエッセイを書いておられたのを読んだ。
しっかり計画された終結は、いったいどれほど起きるのだろうか?人それぞれであろうが、心理療法に限ってはインテークした人の半分以上がドロップアウトしてしまうと考えていいだろう。ビギナーの場合には、三分の一残ればいい方ではないか。
とのことなので、力動的な精神療法でもドロップアウト率は似たようなものなのかもしれない。「自然消滅」というかたちの中断は、治療者と患者のお互いの阿吽の呼吸で起こっている終結のかたちなのでは、という岡野先生の話が興味深かった。
敢えて言うならば、人間はある時期が来れば、別れている方が、よい関係を持てることが多いのである。安定した穏やかな関係は、距離のある関係である。距離を持ちつつ、心の中ではお互いを考えているのだ。
そういうものかもしれない、と思いました。

コメント

このブログの人気の投稿

果物に例える恋愛心理テスト「フルーツバスケット」で本音がわかる?

簡単な恋愛心理テスト「フルーツバスケット」 「フルーツバスケット」という簡単でおもしろい心理テストのことを聞きました。 「心理テスト」というよりは「心理ゲーム」と呼んだ方がいいですね。 こんなゲームです。 【問】 あなたの目の前に、フルーツバスケットがあります。バスケットには、リンゴ、バナナ、ぶどう、みかん、イチゴ、キウイが入っています。5種類のフルーツを、それぞれ身近な異性にあてはめてみてください。 リンゴ= バナナ= ぶどう= みかん= イチゴ= キウイ= さて、いかがでしょう? 何人かにあらかじめ聞いておくと、後で比べられて楽しいです。

数唱と語音整列の乖離は何を意味しているか?

WAISの数唱と語音整列について、この二つに乖離があったらどう解釈されるんだろうかと思って調べてみたメモ。どちらも作動記憶(ワーキングメモリー)に含まれる下位検査だが、いくらか性質が違う。両者の相関は、中程度くらいだったと思う。 数唱 vs 語音整列 Digit span versus letter number sequencing とある海外の掲示板(?)でのやりとり。 一方が他方よりも高得点だった場合、どんな風に説明できるかな? どっちも順番に配列することが含まれているし、ほとんどの人が順序を操作するために聴覚的記憶を使ってると思う。けど、4点以上の乖離(discrepancy)があった場合は? 実施したばかりのアセスメントを詳しく考えてみると、言葉の受容と表出が明らかに難しいケースだったけど、視空間スキルと処理速度はまったく問題なく保たれていた。-Miriam という問題提起に対するスレッドのようだ。 私も以前に何度か同じようなパターンに出会ったことがあって似たようなことを考えたことがあるけど、ぜんぜん専門外だったから。あなたももう考えてるだろうけど、語音整列はたぶんより複雑な課題だと思う。というのも、数唱のように単に数字を扱うんじゃなくって、(文字と数字という)二種類の情報を使ってそれを切り替えながら作業しなきゃいけないから。被験者が教示を理解して、すべてをすっかり頭に入れることができたという手応えはありましたか? これ(語音整列)を実行するにはいくつかの操作が必要だし、呈示されたものすべてを受け取るには言語受容スキルが特に障壁となるかもしれません。他の下位検査にもこの仮説が当てはまるならば意味をなさないかもしれませんが・・・もっと知識のある人ならいい意見が出せるかも。-Butterfly22 私も同じように考えていました。数唱よりも語音整列の方がいいスコアを示しているような同様のアセスメント事例がおかしいのはなんでかなって。-Miriam 数唱が高くて語音整列が低い場合は、並べ替えなどの操作が入ると難しいのかなと推測できるけど、逆の場合はなんだろう。 数唱は基本的にはワーキングメモリーのタスクだけど、語音整列は、上の人が言ってるみたいに、もっと複雑だ。より心的に柔軟でないといけないし、情報の保存/再生の能力だけでなくて...

イヤーワームになる曲トップ9、そして対処法(頭から離れない曲)

止まらないメロディーの正体とは?イヤーワーム現象を科学する 1. イヤーワームとは?耳に残る音楽の正体 頭の中で特定の曲が何度も繰り返される現象を「イヤーワーム」と呼びます(ディラン効果とも。ボブ・ディランの「風に吹かれて」もイヤーワームが生じやすい曲として知られています)。この言葉は、英語の「earworm(耳の虫)」に由来し、まるで耳に虫が入り込んで音楽を流しているかのような感覚にたとえられています。イヤーワームは、特に集中が必要な時や眠る前に起こりやすく、勉強中や仕事中に困った経験がある人も多いでしょう。 頭のなかである曲が延々と流れ続けて止まらなくなる現象を「イヤーワーム」と言います。 「耳の虫」という意味で、まるで耳に虫がもぐりこんで音楽を流しているみたいに体験されることからそう呼ばれています。 強迫性障害や統合失調症の症状として見られることもありますし、健康な人だってしばしば体験します。脳のバグみたいなもんでしょうか。勉強中や仕事中など、何かに集中しなくてはならないときに、イヤーワームが気になって仕方がないということもあります。受験生でイヤーワームに取り憑かれて困っているという人の話を聞いたことがあります。確かに困りますよね。 Psychologists Identify Key Characteristics Of Earworms 「心理学者たちが見つけたイヤーワームの本質的特徴」 という記事が、アメリカ心理学会のサイトに掲載されていました。 イヤーワームを生じさせやすい曲として、たとえばレディ・ガガのBad Romanceが挙げられていました。 2. イヤーワームが起こりやすい人とその原因 イヤーワームは健康な人にも頻繁に起こりますが、強迫性障害や統合失調症などの精神疾患と関連する場合もあります。脳が「バグ」を起こしたかのように、無意識にメロディーがリピートされてしまうのです。心理学的には、音楽の反復やリズムが脳に影響を及ぼし、メロディーが意識に残り続けることが指摘されています​ Hiroshima University Repository 。 3. 科学的に解明されたイヤーワームを引き起こす音楽の特徴 アメリカ心理学会の研究によると、イヤーワームを引き起こしやすい曲にはいくつかの共通点があります。それは以下の3...