フェルナンド・ソレンティーノ「僕の頭を傘で叩くのが癖になっている男がいる」(寺岡美奈訳)

という小説がネットで訳されていて、以前も読んで奇妙だなあと思った記憶があるのだけど、たまたままた見つけて再読したのだった。
僕の頭を傘で叩くのが癖になっている男がいる。その男が僕の頭を傘で叩くようになってから、今日でちょうど五年になる。最初のうちは我慢できなかったが、今ではすっかり慣れてしまった
なんて出だしで始まる。外出しているときも、家にいるときも、いつでもその男はそばにいて、「僕」の頭を傘でとんとんと叩き続けるのだ。


最初に読んだときには、「僕」の幻覚かなにかなのだろうと思ったが、どうやら周りの人に見えていないわけではなさそうだ。バスに乗り合わせた人々が「僕」(と傘で叩く男)を見て大笑いしたり、通りすがりの人がじろじろ眺めるといった記述がある。

それともこうした体験も「僕」の妄想などの表れなのだろうか。あるいはひどい頭痛持ちの話なのかもしれない。

なんてふうに、病理から見てばかりなのも面白くないな。

「僕」は最初のうちは始終叩かれることが気になって(そりゃ当然だ)一晩中眠れなかったが、だんだん、叩いてもらわないと眠れないようにさえなっていく。

 不快な行為をやめさせることも、コミュニケーションや理解することすら不可能な同居人だけれど、しだいに「僕」とその男は奇妙な共生関係を築いていくようだ。
僕はもう叩いてもらわないと生きては行けないようなのだ。
とまで感じるようになる。

「僕の頭を傘で叩くのが癖になっている男」は何かのメタファーなのだろうか。それとも無意味な、たんなるシュールなお話なんだろうか。

Youtubeには、アニメ化された作品まであるじゃないですか。


雨がふっていたって「傘で叩くのが癖になっている男」はとじたままの傘を手に後をついてくるのだ。

もうひとつ、実写版の動画もあった。こちらは、主人公が女性になっている。傘をもったおじさん、完全にストーカーである。



There's a Man in the Habit of Hitting Me on the Head with an Umbrella from Christopher Hood on Vimeo.

やっぱりわけがわかんない!

と思ったので、ちょっと調べてみたくなった。

"There's a Man in the Habit of Hitting Me on the Head with an Umbrella"
というのが英訳版のタイトル(もとはスペイン語らしい)なので、このまま検索してみると、いろいろ出てくる。
"meaning"なんて検索ワードがサジェストされるあたりなど、みなさんこの作品を見て意味を知りたくなるらしいことが表れている。

次のは、Preziにあった、この物語に関する考察。



このストーリーは人生のメタファーで、生きているとこの傘のようにコツコツと頭を叩いてくる意味の分かんないことってあるよね、といった結論らしい。ほんまか。

ちょっと奇妙な雰囲気に浸りたい方、お時間あるときに、ぜひ小説と動画をご覧下さい。短いストーリーなので、2、3分で読めますよ。

Fernando Sorrentina は1942年にブエノスアイレスに生まれたアルゼンチンの作家で、彼の作品はいろんな言語に翻訳されているようだ。

Collection of Sorrentino short stories in English
では英訳された短編小説を読むことができる。

フェルナンド・ソレンティーノ「僕の頭を傘で叩くのが癖になっている男がいる」(寺岡美奈訳)