皆さん、こんにちは!

人生は選択の連続です。朝ごはんにパンを選ぶか、ご飯を選ぶか。あの時、別の学校を選んでいたら?あの人との関係を終わらせていなかったら?

私たちは日常的に、「もしも(What if?)」という思考に囚われることがあります。それは、夢を広げる楽しい想像であることもあれば、「ああ、後悔している」という苦い気持ちを生み出す原因にもなります。

特に人生の折り返し地点を過ぎて、後悔できる機会が山ほど積み重なってくると、この「もしも」思考は心を深く蝕む「心の毒」になりかねません。

今回は、そんな心の悩みを、ドラえもんのひみつ道具「もしもボックス」をヒントに、そして最新の脳科学研究から得られた知見を元に、楽しく、そして深く掘り下げてみましょう。

「もしもボックス」で試せない人生の真理、そこに私たちの心の健康の鍵が隠されていました!


1. 最強のひみつ道具「もしもボックス」の功罪

ドラえもんのひみつ道具の中でも、「もしもボックス」は最強クラスの道具の一つでしょう。受話器に向かって「もしも〇〇だったら」と話すだけで、その通りの世界が現実になるという、まさに夢のような装置です。

「もしもボックス」が教えてくれること

もしもボックスの仕組みについて、ドラえもんは「一種の実験装置」だと説明しています。「もしもこんなことがあったら、どんな世界になるか」を体験するためのもの。

のび太は、これで「鏡のない世界」を作って顔のことで傷つくのをやめようとしたり、「凧揚げと羽根つきのない世界」を作って自分が一番になろうとしたりします。しかし、結局は新しい世界で新たな苦労や、元の世界の良さを知ることになります。

つまり、「もしもボックス」は、「人生には良いことも悪いことも、どこに行っても等しく存在する」という真理を教えてくれているのです。

「現実のもしも」は、心のエネルギー泥棒

しかし、現実の私たちは、残念ながらもしもボックスを持っていません。

「もしもボックス」で実験できない現実世界で、私たちが頭の中で繰り返す「もしも、あの時…」という思考は、実験どころか、私たちの心のエネルギーを根こそぎ奪い去ります。

「あの時、ああしていれば、今頃は幸せだったのに」という後悔の念は、「現在の自分」を否定し、変えられない過去への執着という名の「心のタイムマシン」に乗り込んでしまうことです。


2. なぜ「もしも」思考は心を病ませるのか?:最新研究の警告

さて、ここからが本題です。過度な「もしも」思考は、実際に私たちの心の健康を脅かすという科学的な知見が発表されています。

Psychology Todayの記事で紹介されていた、2025年に科学雑誌『GeroScience』に掲載された研究(Galliら, 2025)は、中年期以降の「もしも」思考と精神衛生の関係を調査したものです。

脳科学が明らかにした「もしも」思考の正体

ドイツの494人以上の参加者を対象に行われたこの研究から、非常に興味深い結果が導き出されました。

研究の驚くべき発見

  1. 年齢とともに、人は幸福になる:

    まず、最も前向きな発見として、年齢が上がるほど、人々は「人生の満足度が高まり、うつ病の症状が少なくなる」傾向が見られました。これは、一般的に言われる「老いることは不幸ではない」という考えを裏付けています。

  2. 「もしも」思考の少なさが、幸福の秘訣:

    そして、注目すべきは、高齢者の方が若年成人よりも「もしも」思考が少ないという点です。特に、うつ病の症状がない高齢者にこの傾向が顕著でした。研究者たちは、このことから「過度な『もしも』思考は、高齢期におけるうつ病の危険因子となる可能性がある」と警告しています。

  3. 脳の連携プレイが後悔を抑え込む:

    さらに、脳の活動を分析したところ、この「もしも」思考を抑え込む能力には、脳の二つの重要な領域の連携が関わっていることが判明しました。

    • 腹内側前頭前野(感情のコントロール)

    • 背外側前頭前野(思考と葛藤の解決)

つまり、感情をポジティブに調整する能力と、心の中の「あの時、どうすべきだったか?」という葛藤をスパッと解決する能力が組み合わさって、私たちは後悔という名の「心の毒」から解放されていたのです。


3. 「もしもボックス」なしで「もしも」を断ち切る3つの心の技

私たちはもしもボックスに入って「元の世界に戻して」と電話をかけることはできません。しかし、この研究結果は、「もしも」思考を抑制することが、より良い精神衛生、そして人生を前向きに捉え直す上でいかに重要であるかを教えてくれます。

さあ、脳科学とドラえもんの知恵を借りて、「もしも」の呪縛を解き放ちましょう!

技①:「今、この世界で良かったこと」を再評価する(ポジティブな感情調整)

もしもボックスの「良い出来事と悪い出来事の比率は等しい」という原則を思い出してください。

あなたが選ばなかった道にも、必ず苦労があったはずです。そして、あなたが選んだ道には、今日のあなたを形作る「良かったこと」が必ずあります。

  • あの時、別の会社を選んでいたら、今の心から信頼できる同僚との出会いはなかったかもしれない。

  • あの時、結婚していたら、今の自由な時間や趣味に没頭する喜びはなかったかもしれない。

選ばなかった道に焦点を当てるのではなく、選んだ道で得た「偶然の幸運」や「成長の経験」を意識的に見つけ出し、感謝することで、腹内側前頭前野の働きを助けましょう。

技②:「それ以上考えない」と決める葛藤解決力(思考のストップ)

後悔の思考は、ループしがちです。「もしも」と考え始めると、「いや、でも…」と無限に答えの出ない反芻(はんすう)が始まります。

ここで重要になるのが、背外側前頭前野が担う**「葛藤の解決」能力です。これは、事実として「もう変更できない」という現実を受け入れ、それ以上の思考を意図的にストップする**力です。

「もしも」が頭に浮かんだら、こう唱えてください。

「この件については結論が出ている。考えるのは終わり!」

そして、すぐに「今、すべきこと」や「楽しいこと」など、別の行動に移りましょう。思考を物理的に断ち切る練習が、脳の制御回路を強化します。

技③:「人生は成長の旅」だと捉え直す(レジリエンスの構築)

記事の結論が示唆するように、「もしも」思考による後悔に対処するための心理的レジリエンス(精神的回復力)を構築することが、心の健康を維持する鍵です。

人生の選択は、どちらを選んでも「100点満点」の保証はありません。しかし、すべての選択には「学び」と「成長」がついてきます。

後悔を抱くことは、あなたが真剣に人生と向き合ってきた証拠です。その痛みを「失敗」として捉えるのではなく、「乗り越えてきた経験」、「今の自分を強くした物語の一節」として捉え直しましょう。

ドラえもんが元の世界に戻すとき、IF世界で得た経験は残ります。私たちも、頭の中の「もしも」の経験を、「未来の選択に活かすための知恵」として活用し、過去への執着は手放しましょう。


まとめ:あなたの人生は、今が最高傑作!

人生という名のキャンバスは、一度色を塗ったら消せない絵画のようなものです。

「もしもボックス」で違うキャンバスに描き直すことはできませんが、今ある絵を最高の作品だと認め、感謝し、そしてこれからの未来に美しい色を加えていくことはできます。

「もしも」はもう卒業! 

「これから、どうするか?」に焦点を当てて、あなたの残りの人生という物語を最高にワクワクするものにしていきましょう!



参考文献

  • 記事: Ocklenburg, S. (2025). Why You Should Stop “What If?” Thinking. Psychology Today.

    https://www.psychologytoday.com/us/blog/the-asymmetric-brain/202510/why-you-should-stop-what-if-thinking

  • 論文: Galli, R. M., Thams, F., Löwe, B., Cheng, B., Thomalla, G., Bieder, M., Petersen, E. L., Büchel, C., & Brassen, S. (2025). Age differences in what-if thinking from midlife onwards: Prefrontal contribution and implications for emotional health in late life. GeroScience. Advance online publication.

    https://doi.org/10.1007/s11357-025-01928-8


本記事は、上記参考文献の内容に基づき、一般的な情報提供と啓発を目的に作成されたものであり、医学的・専門的な助言を目的とするものではありません。