人間関係でこんな経験はありませんか?

  • 相手が露骨に怒っているわけではないのに、なぜかイライラさせられる。

  • パートナーに何か頼んでも、いつも「うっかり忘れた」と返される。

  • 不満を口にせず、無視したり、皮肉を言ったりしてしまう。

それはもしかしたら、あなた自身や、あなたの周りの人が「受動的攻撃性(Passive Aggression)」を発しているのかもしれません。

今回は、心理学の世界で注目されている「受動的攻撃性」とは何か、そして、そのパターンを見抜くためのチェックリストをご紹介します。


1. 受動的攻撃性とは?「間接的な敵意」の表現

受動的攻撃性とは、「怒り」「不満」「敵意」といったネガティブな感情を、直接的でオープンな方法ではなく、間接的・隠蔽的な方法で表現する行動パターンのことです。

簡単に言えば、「不満があるのに、それを言葉にせず、態度や行動で遠回しに嫌がらせをする」行為です。

これは、多くの人が「対立を避けたい」「波風を立てたくない」という思いから、無意識のうちに使ってしまう、やっかいなコミュニケーションの癖です。

なぜ「受動的」になるのか?

  • 対立への恐怖: 相手と真っ向から衝突することを極度に恐れる。

  • 怒りの表現が苦手: 「怒ることは悪いこと」という価値観に縛られている。

  • 責任回避: 間接的な方法なら、問題が起きたときに「私は悪くない」「うっかりしただけ」と言い訳しやすい。


2. 受動的攻撃性の代表的な行動パターン

受動的攻撃性は、心理学の研究者によって様々な視点から分析されています。Psychology Todayが参考にしている研究(Lim & Suh, 2022やSchanz et al., 2021など)で見られる具体的な行動から、代表的な例を見てみましょう。

パターン具体的な行動(日本語でよくある例)
妨害・先延ばし意図的に作業を遅らせる。「忙しい」「忘れていた」と嘘をついて義務を回避する。
無言の行使(無視)相手に不満があるとき、露骨に無視したり、メッセージを意図的に未読無視したりする(サイレントトリートメント)。
皮肉・婉曲的な批判褒めているようで、実は遠回しに相手を侮辱する皮肉や嫌味を言う。そして「冗談だよ」とごまかす。
作為的な失敗不満な相手からの頼まれごとを、わざと中途半端に実行したり、間違えたりする。
陰口・情報操作相手の恥ずかしい過去や秘密を意図的に暴露したり、陰で悪口を言ったりして評判を落とそうとする。

3. セルフチェック!受動的攻撃性チェックリスト

あなたが、あるいはあなたの周りの人が受動的攻撃性の傾向を持っているか、このチェックリストで確認してみましょう。

(評価基準:0=全く当てはまらない、1=あまり当てはまらない、2=どちらでもない、3=かなり当てはまる、4=非常によく当てはまる)

No.質問文(自分にも他人にも使えます)評価(0〜4)
1不満がある相手に対し、教訓を与えるために、メッセージや連絡を意図的に無視することがある。
2相手の努力や姿勢に不満があるとき、それを示すために自分も最低限のことしかしないようになる。
3相手を不快にさせたいとき、皮肉を言ってから「冗談だよ」とごまかすことがある。
4誰かに不満があるとき、関係のない話題を持ち出して意図的に相手の時間を浪費させることがある。
5パートナーと喧嘩した後、愛情や優しさを示すのを拒否したり、冷たい態度をとったりする。
6誰かからの頼まれごとを避けるため、「うっかり忘れた」という言い訳を使うことがある。
7相手が私を傷つけたとき、連絡や日常のやり取りを予告なく一方的に中断することがある。
8相手に不満があるとき、その人を困らせるために、わざと作業を遅らせたり、引き延ばしたりする
9誰かに褒められても、素直に受け取れず、「ただ気を遣っているだけ」と解釈してしまう。
10落ち込んでいるとき、自分にとって良いことや気分が晴れる活動をあえてしないようにしてしまう。
合計点

チェックリストの読み方

これは正式な診断テストではありませんが、傾向を理解するのに役立ちます。

  • 合計点:0〜10点:受動的攻撃性の傾向は低いでしょう。

  • 合計点:11〜20点:いくつかの状況で受動的攻撃的な対応をしてしまうことがあります。

  • 合計点:21点以上:受動的攻撃的な行動パターンが強く出ており、人間関係に影響を与えている可能性があります。


4. 受動的攻撃性を卒業するために

受動的攻撃性は、一時的に自分の感情を守るかもしれませんが、長期的に見ると人間関係を蝕み、最終的には自分自身のストレスを増やします。

もし、チェックリストで高い点数が出たとしても、それは「意地悪な人」だという意味ではありません。ただ、「感情をストレートに表現する方法が未熟である」というだけです。

改善のための第一歩

  1. 感情の特定: 誰かにイライラしたり、不満を感じたりしたとき、まず「今、自分は怒っている」「傷ついている」と、自分の感情を正確に特定します。

  2. 一時停止(ワンクッション): すぐに皮肉や無視をする代わりに、5分間待ってから行動します。

  3. 「I(私)」メッセージで伝える練習: 間接的な嫌がらせではなく、自分の気持ちを主語「私」で伝える練習をします。

    • (悪い例:受動的攻撃):「どうせあなたがやったって遅れるでしょ」

    • (良い例:アサーション):「私は、この仕事が期限までに終わらないと不安になりますを安心させてくれる明確な計画を教えてもらえますか?」

受動的攻撃性を理解することは、より健康的で誠実な人間関係を築くための第一歩です。無自覚の怒りを手放し、モヤモヤのないコミュニケーションを目指しましょう。



【参考文献】

学術論文:

  1. Lim, Y.-O., & Suh, K.-H. (2022). Development and validation of a measure of passive aggression traits: The Passive Aggression Scale (PAS). Behavioral Sciences, 12(8), 273. https://doi.org/10.3390/bs12080273

  2. Schanz, C. G., Equit, M., Schäfer, S. K., Käfer, M., Mattheus, H. K., & Michael, T. (2021). Development and psychometric properties of the Test of Passive Aggression. Frontiers in Psychology, 12, 579183. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2021.579183

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