弁証法的行動療法 (認知行動療法の新しい潮流)
ミカエラ・A・スウェイルズ ハイディ・L・ハード
明石書店 (2015-08-25)
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弁証法的行動療法(DBT)は、境界性パーソナリティ障害や慢性的な自殺傾向をもつ人々を支援するために生み出された認知行動療法です。

身近にDBTに詳しい人がいないので、何冊か本を読んだことがあるだけですが、創始者のマーシャ・リネハン自身が若い頃に自傷行為で苦しんでいたということもあってか、とてもよく練り込まれた統合的なアプローチなのだろうなとの印象をもっていました。

この本は、どちらかというと「理論編」といった感じでしたが、「DBTの30の特徴」が取り上げられていて、概要をつかむには適していました。
リネハン(1993a)は、精神療法の中心的な対立は変化と受容の間で生じると示唆した。変化と受容の関係は、治療の基本的なパラドックスと文脈を形成している。治療的変化は「あるがまま(what is)」を受容する文脈でしか起こりえないが、受容という行為そのものが変化でもある。
ということで、弁証法的行動療法の「弁証法」とは、今この瞬間のクライエントを受け入れる「受容戦略」と、クライエントの行動変化を試みる「変化戦略」の間をすばやく行き来することでバランスをとるということを指しています。

「セラピーでは、クライエントの反応が妥当であると同時に解決すべき問題でもあるということを、クライエントが理解できるように支援する」といった文章が腑に落ちました。

また、禅の思想の影響でしょうが、弁証法的行動療法では、人生を「本来的に有意義であると同時に完全に無意味でもある」ととらえているようです。ここでもまた、弁証法的な視点が働いているわけですね。

個人的に興味深かったのは、30の特徴のうちの25番目に挙げられていた「自己開示の利用」でした。
DBTは自己開示を、治療関係における徹底的な誠実さの側面を表す戦略とみなしている。セラピストは専門家としての役割の枠内で、治療関係の中で積極的に自分自身に関する情報を明かそうとする姿勢を示すことによって、クライエントがメカニズムとしての関係性を、自分自身について、そして一般的な対人関係について知るために利用できるようにする。
セラピストが「分析の隠れ蓑」とか「中立性」といった古典的な精神分析のような態度を取っていたら、境界性パーソナリティ障害の人たちは、不安をかきたてられて不安定になることがあります。

このあたりは、DBTに限らず、経験のあるセラピストなら、柔軟に自己開示を活用しているのではないかなと思います。

さてもう寝よう。