不安な時代に「占い」を選ぶ心理とは?——科学と信念の間でゆれる私たちの心
毎朝のテレビや雑誌の片隅にある「今日の運勢」、初詣で引くおみくじ、スマホに届く“ラッキーアイテム”のお知らせ——こうした占いやおまじないは、私たちの暮らしにすっかり馴染んでいます。けれど、ふと考えてみると、「これって信じていいの?」という疑問も湧いてきませんか?
県立広島大学の研究者たちによる最新の心理学研究「占いやおまじないに対する態度と情報処理や制御焦点のスタイルとの関連性」(地域創生学部紀要 第3号)では、まさにこの問いに迫っています。
占いやおまじない、なぜ惹かれる?
研究ではまず、占いやおまじないに対する人々の「態度」を多面的に捉える尺度を開発しました。その結果、人々の態度は以下の5つに分類できるとされました。
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効果を感じた・信じている(信奉)
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日常生活に取り入れている(活用)
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興味・関心がある
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民族宗教的儀礼への共感
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懐疑的な見方をしている
つまり、「面白いから見るけど、信じてない」や「本当に効くと思っている」「興味はあるけど試したことはない」など、多様なスタンスがあることがわかったのです。
科学的に見れば「非合理」——でも、それだけじゃない
もちろん、科学者からすれば、占いに明確な根拠はありません。実際、多くの論文が「非合理的信念」として占いやおまじないを批判してきました。しかし、研究者たちは、そこにこそ人間の心の奥深さがあると指摘します。
例えば、人は不安を抱えているとき、未知の未来を少しでもコントロールしたくなる。その時に、合理的な判断力よりも、「直感」や「期待」が勝る場面があるのです。こうした心理傾向は「思考の二重過程理論」や「制御焦点理論」といった心理学の理論で説明されています。
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「直感的な思考」が強い人は、占いを信じやすい傾向
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「予防焦点」(悪い結果を避けたい志向)が強い人ほど、おまじないを利用しやすい
都合のいいときだけ信じる?——実は適応的な行動かも
興味深いのは、「信じたいことだけ信じる」という人が意外と多いということ。調査では、占いを「都合のいいときだけ信じる」と答えた人が全体の4割を超えていました。
それって矛盾しているように思えますが、研究では「短期的なメンタルの安定にはむしろ有効な行動」として捉えられています。いわゆる「占いに背中を押してもらう」ことで、ポジティブな行動変化につながる場合もあるのです。
依存や悪用のリスクも——だからこそ知っておきたい心の仕組み
一方で、占いやおまじないが悪用されるケースも少なくありません。高額な占いサービス、開運グッズの押し売り、さらには霊感商法の入り口になることも——。
本研究は、そうしたリスクを防ぐためにも、「人はなぜ占いに惹かれるのか?」という心理的背景を明らかにし、啓発につなげることを目的としています。
「信じるか信じないかはあなた次第」と言ってしまえばそれまでですが、科学的に“なぜ”人は占いやおまじないに惹かれるのかを考えることは、自分自身の不安との付き合い方を見つめ直すきっかけになるかもしれません。
VUCA(予測困難)な時代を生きる今、私たちはどんな希望を、どんな安心を占いに託しているのでしょうか?
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