レイの複雑図形(ROCF)とは?高次脳機能障害や発達障害への評価と臨床応用
レイの複雑図形(Rey-Osterrieth Complex Figure, ROCF)は、視空間構成能力および視覚的記憶を評価するために使用される神経心理学的な検査です。この検査は、視覚的に提示された複雑な図形を模写し、その後再現することで、被験者の視覚記憶や計画、組織化能力、遂行機能を評価します。以下に、ROCFの概要、高次脳機能障害および発達障害への評価と臨床応用について詳述します。
1. ROCFの概要と評価方法
ROCFは、もともとアンドレ・レイ(André Rey)によって開発され、その後、オステリアス(Paul Osterrieth)によって改良されました。検査は以下の手順で行われます。
- 模写フェーズ: 図形を見ながら模写します。この段階では視空間構成能力や手順の計画能力が評価されます。
- 即時再生フェーズ: 図形を隠した後、記憶に基づいて図形を再現します。この段階では視覚的短期記憶が関わります。
- 遅延再生フェーズ: 30分後に図形を再び再現します。これにより、長期的な視覚記憶が評価されます。
評価方法としては、Osterrieth法やBoston Qualitative Scoring System(BQSS)などがあります。BQSSは図形の構成要素を複数のカテゴリに分類し、それぞれの精度をスコアリングすることで、模写や再生時の認知戦略や遂行機能の評価を行います
。2. 高次脳機能障害への臨床応用
ROCFは高次脳機能障害(例: 脳卒中、外傷性脳損傷、認知症など)の評価において有用です。模写や再生の精度が低い場合、以下のような障害を示唆することがあります。
- 視覚的記憶障害: 図形の再現時に主要な形状が欠落していたり、位置が大きくずれている場合。
- 遂行機能障害: 模写フェーズで計画性が欠け、部分的な描写に留まる場合や、構成が乱れている場合。
- 注意障害: 主要な要素を無視したり、同じパターンを繰り返し描画する保続現象が見られる場合。
これらの評価は、リハビリテーションや介入プログラムの設計に役立つ情報を提供します。
3. 発達障害への評価と応用
発達障害(例: 自閉スペクトラム症、ADHD、学習障害)のある子どもにもROCFは有用です。岡山大学の研究では、発達障害を抱える子どもを対象にROCFとWechsler式知能検査を組み合わせて評価を行い、視覚認知や構成力の問題が学習の困難さに関連する可能性が示唆されました
。発達障害を持つ子どもでは、以下の特性が観察されることがあります。
- 計画や組織化の困難さ: 描画時にランダムに要素を追加する傾向があり、全体の構成がまとまりに欠ける。
- 視覚的注意の偏り: 図形の一部に集中しすぎて他の要素を無視する。
- 模写の質のばらつき: BQSSなどの質的評価法を用いることで、描画の細部や戦略に関する情報が得られ、より適切な支援計画の策定に役立つ。
4. ROCFの評価方法と最新技術の活用
近年、描画プロセスをデジタルデータとして記録する技術が導入され、より詳細な評価が可能となっています。例えば、タッチペンやデジタルデバイスを使用して描画過程を分析することで、描画の速度や順序、筆圧の変化を捉え、被験者の認知特性をより深く理解できます。これにより、従来の手法では捉えにくかった認知的な戦略や視覚処理の特徴を明らかにすることが可能です
。5. ROCFの課題と今後の方向性
ROCFは多くの臨床場面で有用ですが、いくつかの課題もあります。
- 標準化の問題: さまざまな評価法が存在するため、結果の比較や解釈が難しい場合があります。
- 発達段階に応じた評価基準: 子どもと成人の認知特性が異なるため、年齢に応じた基準の整備が求められています。
- 新しいスコアリングシステムの開発: デジタル技術を活用した新しい評価方法の確立が進んでおり、これが臨床応用にどのように役立つかが今後の研究課題です。
参考文献
眞田, 敏., 池田, 葵., Higa Diez, M., 加戸, 陽子., 荻野, 竜也., 中野, 広輔., 山根, 大輝., & 濃野, 信. (2014). 発達障害をともなう子どもへのRey-Osterrieth複雑図形検査の臨床応用. 岡山大学大学院教育学研究科研究集録, 156, 7-13. https://doi.org/10.18926/bgeou/52775
萱村, 信一., 中嶋, 一夫., & 坂本, 明徳. (2005). レイ・オステリアス複雑図形の構造と評価基準について. 小児保健研究, 64(5), 695-696.
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これらの文献は、ROCFの臨床応用や評価法の進展についての理解を深めるために有用です。
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