大事な発表の前とか、あるいは誰かとぎくしゃくしたとき、不安を感じることがありますよね。英語では、心配や不安でどきどきしている状態を指すのに、have butterflies in one’s stomach(胃の中にチョウチョがいる)なんていう表現があるそうです。なんだか面白い表現ですね。
不安は誰しも体験することですが、ときには不安によって圧倒されて、仕事や生活、人間関係に支障がでることもあります。では、不安に対処し、やわらげるには、どうしたらいいのでしょうか?

不安について学ぶ

不安とは?

不安に対処するためには、まず不安について知る必要があります。
不安(anxiety,uneasiness)とは、何かに脅かされているという感情です。「恐怖」という場合は対象がはっきりしていますが、「不安」というときにはより漠然としていることが多いようです。何かが気がかりで、落ちつかない。あるいは何か危険なことが起きそうだと警戒している心の状態ですね。
不安を意味するドイツ語Angstということばは、語源をさかのぼると「せまいところ」「当惑や狼狽」「呼吸が短いこと」などを意味しているそうです。
不安について、いくつか知っておいた方がよいことをあげてみます。
  1. 不安を抱くのは普通のことです。誰だって不安になることはあるし、それはノーマルなことなのです。
  2. 不安は適応的です。不安は、私たちに危険を知らせてくれます。また、不安があるから、がんばって準備して成果をあげようと努力もするわけです。
  3. 不安は危険なものではありません。不安そのものがあなたを傷つけたり、危険にさらすわけではないのです。不安は、あなたを危険から守るためにあります。
  4. 不安はいつまでも続きません。時がすぎれば、次第に減っていくものです。
不安は火災警報装置のようなものと考えてみるとわかりやすいかもしれません。煙や炎を探知して火事を知らせてくれる警報装置は、私たちを火事から守ってくれる働きをしています。ところが警報装置が敏感すぎるとどうなるでしょう? 秋刀魚を焼いたり、煙草を吸うたびにブザーが鳴って慌てるようだと、ちょっと困りますよね。そんなときには、警報装置の感度を少し落とす必要がありそうです。

不安と身体反応


不安を感じているとき、あなたの身体は、闘うか逃げるか、それともフリーズするかという3つの反応が起こりやすくなります(“fight-flight-freeze”反応と呼ばれています)。緊急事態に備えて交感神経が高ぶり、血液中にアドレナリンが分泌されます。内臓は活動を弱めて(熊から逃げたり、闘ったりするときに、お昼の消化をしている暇はないのです)、血液は心臓に集まります。心臓の鼓動が早まり、血液が身体中をめぐります。目の瞳孔が開き、手足には汗がにじみます。逃げるにせよ、立ち向かうにせよ、身体にはこのような変化が生じて、備えるのです。以下のような身体的変化が起こります。
  • 動悸や呼吸が激しくなる
  • 心拍数増加
  • 発汗
  • 息苦しさ
  • 頭痛や胸痛、胃痛、腹痛
  • めまい、ふらつき、目がかすむ
  • 身体のふるえ
  • 熱感や冷汗

不安が関係する心の失調

不安を感じるのはごく普通のことですが、では、どの程度まで不安が強くなれば、病院やカウンセリングなどを頼った方がいいのでしょうか? 不安がそれほど長く続かず、がまんしたり、自分で解消できるならば、それほど心配しなくてもよさそうです。また、不安なことを家族や友人に話して、分かってもらえるという関係があれば、専門家に助けてもらわなくてもなんとかなるかもしれません。自分でも不安を表しにくいし、周りにも分かってもらえない、抱えておけないほど強い不安が長く繰り返し続くといった場合には、なんらかの心の失調を疑ってみる必要があるかもしれません。
精神科などで「不安障害」言われる心の失調の、代表的なものを以下に挙げます。自分で「この病気だ」と決めつけたりせず、心配であれば専門医を受診してみてください。

パニック障害(Panic Disorder)

神経伝達物質のバランスの乱れなどから起こると考えられている病気で、強い不安やパニック発作が特徴です。「またパニック発作になるのではないか」という強い不安(予期不安といいます)も見られ、「死んでしまうのではないか」「気が狂ってしまうのではないか」と感じることも多いのです。

全般性不安障害(Generalized Anxiety Disorder)

理由がはっきりと定まらない不安が長期間つづき、身体的な症状や抑うつなどを伴う病気です。1000人に64人程度がかかる病気とのことで、決して稀なものではありません。

社会不安障害(Social Anxiety Disorder)

人前で何かをする、あるいは逆に一対一で誰かと面談する、といった社会的な状況で強い不安を感じ、こころや身体にさまざまな症状が現れます。

強迫性障害(Obsessive–compulsive disorder )

「何度も手を洗い続ける」「戸締まりや火の確認を度を超して繰り返す」「気になった数字や言葉についていつまでも考え続ける」といった、自分でも不合理だと分かっていてもしないではいられない「強迫行為」によって、生活や仕事に影響が出てきます。

不安障害の克服・改善、不安への対処法

日々のセルフケア

まずは、日々の生活を整えることがセルフケアの第一歩です。
1.バランスのよい食事を規則正しくとる。
2.十分な睡眠をとる。
3.運動をする。
4.カフェインやアルコール、煙草などを取りすぎないようにする。
といったことに注意することで、不安に圧倒されにくくなります。特に運動は、不安障害だけでなく、うつ病や統合失調症といった精神疾患に対しても、予防や改善の効果をもっています。運動はセロトニンなどの神経伝達物質に影響を与え、ストレス反応をやわらげてくれます。また、カフェインはパニック発作を誘発することがあるので、量に注意した方がよいようです。
[運動で心の安定]

リラクセーション

1.穏やかに呼吸する

不安なときには呼吸が浅く、早くなります。過呼吸気味になり、不安発作が誘発されることもあります。意図的に、深くてゆっくりした呼吸をすることで、不安が静まってきます。お腹をふくらませる複式呼吸は、身体がゆったりしたときに活動する副交感神経系を刺激します。
[腹式呼吸][うつや不安をやわらげる片鼻呼吸法]

2.筋肉のリラクセーション

ジェイコブソンが考案した、筋肉の緊張と弛緩を交互に行なうことでリラックスする方法です。身体の筋肉ひとつひとつにぎゅっと力を入れて、それからストンと抜きます。いちばん簡単なのは、両肩をぎゅーっとあげて耳に近づけて、しばらくしたらふうっと息を吐いて肩を落とすというやり方です。
[漸進的筋弛緩法]

不安に気づいて受け入れる

「杞憂」(きゆう)とは、かつて中国の杞という国の人が、空が落ちてきたり、大地が崩れたりするのではとあり得ないことを毎日心配していたという故事に由来しています。ここから、あれこれと無用な心配をすることを「杞憂」というようになったんですね。取り越し苦労とも言いますね。未来は不確実なものです。どうなるか分からない未来のことを無駄に心配するより、今できることに取り組んでみましょう。
日本で生まれた森田療法という心理療法(森田正馬という人がつくりました)では、不安や緊張は取り除くべきものではなく、自然な感情だと考えます。「気にしないようにしよう」「不安をなくそう」と思うのではなく、気になることや不安なことをそのまま受け入れて、なおかつ気分に左右されるのではなく、やるべきことを淡々としていくことで、いつの間にか不安が気にならなくなるというのです。
不安や恐れなどの感情に気づくことができると、感情体験や反応は変化します。次のようなステップで、感情への気づきを練習してみてください。
  1. 過去や未来に注意を向けるのではなく、今ここの瞬間で、不安を十分体験します。
  2. 不安を押さえこもうとか、ポジティブに感じようなどとせず、不安を不安のままに感じてください。同じ不安でも、その瞬間瞬間で、強弱やニュアンスが違うことに気がつくかもしれません。
  3. 不安が減っていったり、どこかへ流れていくならば、そのままにしておきます。新たな不安が出てきたら、またそれを体験してください。

不安思考を変える

不安がさまざまな身体的反応を生むことはすでにお話しました。それだけでなく、不安は思考や行動にも影響を与えます。例えば、学校の友人や職場の同僚とぎくしゃくすることがあったとします。「相手はひどく怒っているんじゃないか」と不安になると、顔がこわばったり、呼吸が浅くなるなどの身体の反応が生じます。そして「きっとこれからもうまくいかないに違いない」「他の人たちにも嫌われるだろう」とネガティブな思考が引き起こされるかもしれません。さらには、顔を会わせたくないから遅刻していく、休んでしまうといった行動も現れることだってあります。こうなると後は悪循環です。休んでしまうとよけいに気まずくて、顔を会わせづらくなります。休んだことをどう思われるかと不安になり、「やっぱり自分なんて必要とされていないんだ」とさらに思考はマイナスの方向に向かいます。
こうなってしまう前に、なんとか悪循環を抜け出さないといけません。
感情反応そのものは、自分で変えるのはなかなか難しいものです。呼吸やリラクセーションなどで、身体反応を変えていくか、あるいは行動や思考を変化させることで、感情にも影響を与えることができます。
認知行動療法では、心に自動的に浮かんでくる「思考」に気づいて、それをより適応的な考え方や捉え方に修正していきます。

不安にチャレンジする

不安なことを避けたくなる、回避したくなるのは、ある意味では当然の心理です。

でも、不安というものは広がっていきやすいもの。

「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」

じゃないですが、不安の対象はどんどん広がっていきやすいのです。

「車の事故で怪我をしたから、車が怖くて乗れない」
「自転車だって、車とぶつかるかもしれない」
「バスもだめ」
「電車だって、安全とはいえない」

といったように、不安を感じるたびに回避行動をとっていると、だんだん生活の範囲が狭くなってきて、家から一歩も出られなくなってしまいかねません。

そうならないためには、不安を回避してばかりではなく、不安の対象に向き合ってみるということも必要になってきます。

多くの研究では、不安障害の治療において役に立っていることとして、「不安への暴露」の要因が多いことが明らかになっています。

つまり、不安に直面することで、「意外と平気だった」「最初は不安だったけど、だんだん治まってきた」という体験をすることが、治療や回復・克服につながるということです。

インターネット上のリソース

その他の不安の病気(うつ病と不安の病気の情報サイト)
不安障害〜パニック障害と社会不安障害(ファーマライズホールディングス「薬局新聞」) pdfファイル
社会不安障害(原井宏明の情報公開)