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4月, 2015の投稿を表示しています

愛と慈しみの瞑想が脳を変える

 Loving kindness meditation は、日本語では「慈悲の瞑想」と訳されている。愛と慈しみの瞑想といった意味合いで、仏教のメッタ(metta)瞑想からきており、メッタという言葉がパーリ語で「慈悲の心」を表す言葉。 気持ちがすさんでたり、とげとげしているときにしてみるといいのだが、脳にもポジティブな変化をもたらすらしい。 慈悲の瞑想と脳の変化 研究では、慈悲の瞑想は他者の感情を知る神経系の反応の変化や脳の情動プロセス領域の活動性の変化と関連していることが示されている(Lee, et al. 2012)。また、近年の研究では、慈悲の瞑想により、「目から心を読むテスト」(Reading the Mind in the Eyes Test)で他者の感情を読み取り、共感する能力が非常に向上することが発見された (Mascaro, et al. 2013)。機能的核磁気共鳴断層画像法(MRI) を用いた研究では、思いやりの訓練によって、利他行動および社会意識と情動調律に関連した脳部位の活動性の変化がともに増加することが発見された(Weng, et al, 2013)。また、メッタ瞑想は抑うつ状態の人の脳波図(引きこもりと関連する前頭野α波の不均衡)を改善することが示されている(Barnhofer, et al. 2010)。 Change Your Brain With Kindness  | Psychology Today 慈悲の瞑想を実践する 現在、日本でよく知られている慈悲の瞑想は、スマナサーラ長老の著作などで紹介されることの多いテーラワーダ仏教系のやり方だろう。 慈悲の冥想Mettâ Bhâvanâ 音声ファイルも聞くことができる。 Psychology Todayで紹介されている Loving kindness meditation は、宗教的な色合いがより少ないようだ。 ゆったりと目を閉じて座って、リラックスするまで何度か深く呼吸をする。まず自分自身が安全で快適な空間にいることをイメージして、その人の目を見つめながら、2〜3回次のように唱える。 May I have joy. May I have happiness. May I be free from suffering....

鉄道自殺予防にホームドアや青色照明灯は効果的か?

鉄道自殺について。 正式には「移動中の物体の前への飛び込み又は横臥による恋の自傷及び自殺」と分類されるらしい。この場合、鉄道以外の物体、たとえば自動車とか飛行機(に飛び込むのは難しいだろうけれど)なども含まれている。 日本全国における鉄道自殺の件数は平均で年間600~700件。過去20年間では減少傾向がみられる。男性よりも女性に鉄道自殺の割合が高い。また、年齢別にみると男女とも10代の自殺に占める鉄道自殺の割合が高い。 首都圏の一件当たりの自殺による影響額は、平均値が8900万円、中央値が7700万円とのことだが、これは下限の推定額であり、実際の経済的コストはより高額になるだろうとのこと。 統計的な分析によると可動式ホームドアの設置によって自殺件数が76%減少している。可動式ホーム柵よりはフルタイプのホームドアの方が自殺防止効果が高いが、コストもかかる。 青色照明灯の設置後は、自殺者数は平均して約74%下がるという。ただしこれはホームに設置された場合で、踏切での青色照明灯の効果は検証されていない。また、夕方から夜間の自殺は全体の14%にとどまる(青色灯の効果は夜間のみ)。 松林哲也、澤田康幸、上田路子 「 鉄道自殺の現状と予防策 」、精神科治療学 30(3);381-386, 2015 歴史上初めての鉄道自殺は、1852年のことだという。商用鉄道が開通したのは1825年のイギリスとのことだから、四半世紀は鉄道自殺を思いついた人はいなかったということなのだろう。( Railway suicide in England and Wales, 1850-1949. ) もうずいぶん前のことだが、ホームで人が飛び込む瞬間に居合わせたことがある。目撃者だったので、鉄道警察で調書を取られた。飛び込んだ年配の女性は最後に煙草を一服していた。自分もすぐ隣でたばこを吸ったので、その人と目があったときに「なんだかずいぶん虚ろな感じだ」と思ったのを覚えている。 *追記 人身事故多発の新小岩駅、対策が怖すぎると話題!ただしホームドアは設置しない模様 というTogetterを読んだ。 人身事故(自殺)が多発するとそのうわさや報道でさらなる事故をまねき、「名所」化してしまうという悪循環。

世界の自殺率

WHOのサイトを見ていたら、世界の自殺率を比較した図がわかりやすかった。 Suicide data | WHO 世界では毎年80万人もの人が自殺で亡くなっており、自殺企図はそれ以上になる。したがって、何百万人もの人々が自殺による死別の影響を受けている。また、2012年の統計では15歳から29歳の若者の死因の二番目が自殺だという。このマップでは日本の自殺率は高く、日本の 自殺対策白書 を見ると、若者の死因のトップが自殺となっている。 日本の自殺者数は平成25年は2万7,283人ということだが、失踪や不審死などがカウントされていないために本当はずっと多いとも言われている。

「ウェルテル効果」と「パパゲーノ効果」から読み解く自殺と報道の関係

先月のドイツの ジャーマンウイングスの墜落事故は、副操縦士が意図的に行った、いわば自殺行為だといいます。宗教的・政治的なテロリズムではなく、個人が多くの人々を巻き込んで自殺したことは非常にショッキングな事件でした。 太刀川弘和「自殺予防とメディア-ウェルテル効果とパパゲーノ効果」、 精神科治療学 30(3) ; 369-374, 2015 では自殺とメディア報道について、ウェルテル効果とパパゲーノ効果という二つの現象が紹介されていました。 ウェルテル効果、パパゲーノ効果とは何でしょうか? ウェルテル効果 ウェルテル効果 ( Werther effect) とは、有名人や新奇な方法による自殺事件がメディアで報じられた後、似たような自殺が生じるという現象です。 ゲーテの『若きウェルテルの悩み』がベストセラーになった後、失恋した若者が自殺を図る事例が増えたことに由来しています。ウェルテルと同じ方法で自殺をする人が続いたため、いくつかの国で発禁処分となったのです。 ウェルテルの自殺は、「褐色の長靴と黄色のベスト、青色のジャケット」を着て、ピストルを使うという方法でした。 フィリップスという社会学者が、1974年から1967年までのアメリカの自殺統計を、ニューヨークタイムズの一面に掲載された自殺と比較して、報道が自殺率に影響することを証明しました。 フィリップスの調査では、 自殺率は報道の後に上がり、その前には上がっていない。 自殺が大きく報道されればされるほど自殺率が上がる。 自殺の記事が手に入りやすい地域ほど自殺率が上がる。 といったことが明らかにされています。 日本でも、 アイドル歌手の岡田有希子や X JAPANのhideの自殺の後、ファンの後追い自殺が数多く起こりました。 少しふるい事例では、太宰治の入水自殺のときにも、後追いで死んだ人が何人もいたそうです。 パパゲーノ効果 ウェルテル効果とは逆の現象は「パパゲーノ効果(Papageno effect)」と呼ばれています。 報道の中でしっかりと自殺予防をしていくことで、自殺を防ぐ可能性も高まるといったことを表す言葉です。 また、自殺念慮を持った人が危機を乗り越えた、といった内容の報道も自殺予防効果があるのです。 パパゲーノとは、モーツ...

サリーとアンの課題(心の理論)

心の理論(Theory of Mind)とは 心の理論(Theory of Mind)とは、ヒトや類人猿などが、他者の意図や目的、信念、知識などを推測する心の働きを指す。もともとはチンパンジーのあざむき行動の研究から始まった。 「心の理論」とは、自分自身や他人の心の中にある信念、感情、欲求、意図などを推測し、理解する能力のことだ。心の理論は、子どもの発達において重要な役割を果たしている。例えば、子どもたちは、他人の視点を理解し、共感することができるようになることで、社会的な交流を効果的に行うことができる。 心の理論の研究は、主に2つのアプローチで行われている。1つは、心の理論の発達を調査することで、心の理論がどのように形成され、発達するのかを理解することだ。もう1つは、心の理論がうまく機能していないと思われる人々を研究することで、心の理論の重要性を明らかにすることだ。 心の理論の発達に関する研究では、幼児期から始まり、思春期や成人期に至るまで、心の理論がどのように発達するかを調査している。幼児期の研究では、子どもたちが他人の欲求を理解し、共感することができるようになる時期が約2歳であることが示されている。また、思春期においては、社会的な状況に対する理解力が向上し、社会的な問題に対処する能力が発達することが示されている。 心の理論が適切に機能していないと思われる人々を研究することで、心の理論の重要性を明らかにすることができる。例えば、自閉症スペクトラム障害(ASD)の人々は、他人の感情や意図を理解する能力に欠けていることが知られている。自閉症スペクトラムの子どもは、定型発達や他の障害(たとえばダウン症)などと比べて、この心の理論の発達が遅い。統合失調症などの精神疾患によっても、こうした心的機能が障害されることがある。このような研究から、心の理論が社会的な交流において重要であることが明らかになった。

マインドフルネスの西洋化とお金

The Long Marriage of Mindfulness and Money | THE NEW YORKER マインドフルネスとお金の長くて親密な関係 Googleがマインドフル瞑想を取り入れているということは知られるようになったが、このごろではウォールストリートの人々まで瞑想に励んでいるようだ。 上座部仏教から取り入れられたマインドフル瞑想は、しばらく前にヨガがもてはやされていたような位置に入り込んですっかり受け入れられてしまった。 記事では、マインドフルネスが、その潜在的な利点はあるにしても、実業界においてカルト化する危険について触れられている。アメリカの資本主義は、これまでもずっと東洋的のスピリチュアリティにロマンを感じてきた。で、結局ヒンズー教も仏教も自己啓発とか効率的なワークスタイルだとか、いわば「お金」の話に還元されてしまうという危険がつきまとっているということらしい。 私たちが今日知っているマインドフルネスは、西洋的な心理学のフレームワークに合うように、合理化、近代化され、セルフヘルプやビジネスのためのツールになったものだという。 近代化するのが必ずしも悪いとは思わないが、シンプルであんまりお金のかからない方がいいですね。

共感覚(シナスタジア)。どっちが「ブーバ」でどっちが「キキ」?

シナスタジア Synesthesia(共感覚)というタイトルの映像を見た。 TERRI TIMELYというアートユニットの作品らしい。 ちょっと面白いですね。 共感覚(シナスタジア)とは、ある刺激に対して通常の知覚とは異なった感覚が生じるような特殊な知覚現象を指している。たとえば文字に色を感じる、形に味を感じるといったもので、たんなる比喩ではなくて当人にとってはとても生々しくリアルに体験されるものだという。 次はTEDの「火曜日の色はなに? 共感覚を探求する」という講演。 ブーバキキ効果 脳科学者のラマチャンドランは、共感覚者たちの知覚が記憶や推論ではないことを実験的に確かめた。 左右の図形、どっちが「ブーバ」でどっちが「キキ」? というよく知られた図形。 数字に色を見る人たち 共感覚から脳を探る(V. S. ラマチャンドラン) [pdf] ときどき、聞こえてくるものを視覚映像や味覚に変換してみたり、見えるものを音で表したりしてみると脳にいい刺激が与えられるかもしれない。

ADHDの子どもは身体で学ぶ

新しい研究によれば、ADHDの子どもに何かを学ばせたいときには、その子たちにもじもじさせなきゃいけないらしいのです。足をバタバタブラブラさせたり、椅子をガタゴトさせる動きは、ADHDの子どもが情報を思い出したり複雑な認知的課題を実行する際に不可欠なのだそう。 Kids with ADHD must squirm to learn, study says 何十年ものあいだ親や教師は落ち着きのないADHDの子どもたちに「じっと座って集中しなさい!」とイライラしながらどなってきた。しかし 研究によれば、じっとさせるのはかえって逆効果なのだという。 元ネタの論文はこちら。 Dustin E. Sarver, Mark D. Rapport, Michael J. Kofler, Joseph S. Raiker, Lauren M. Friedman. Hyperactivity in Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder (ADHD): Impairing Deficit or Compensatory Behavior? Journal of Abnormal Child Psychology, 2015; DOI: 10.1007/s10802-015-0011-1 過剰な粗大運動(多動性)は、ADHDの中核的な診断特徴で、学習を妨げるものだと考えられてきた。しかしながら、最近の見解では多動性はADHDの子どもの神経認知機能を促進する補償的な働きをもっていると考えられるようになってきたという。この研究では、ADHDと定型発達の子どもたちのワーキングメモリーが活動性のレベルとどれくらい関係しているかということが調査された。 ADHDの子どもたちは、多動が目立つときほど学習効果が高いという結果だったそうだ。逆に定型発達の子どもたちは、もじもじしているときはそれほど学習しなかったという。ADHDの人たちは、身体を動かして覚えたり学んだりする、ということなのだろう。 以前にADHDは狩人の子孫だという説を読んだことがあるけれども、こういうタイプの人たちは、まずは手や身体を動かして、それから考えようという傾向をもっているのだと思われる。 自分をふりかえってみても、確かに何か考えるときに...

描く瞑想? アートセラピーゼンタングル

ゼンタングル(Zentangle)というアートワークの方法。 先日、書店でたまたまこのゼンタングルの本が何冊か並んでいるのを見て、一冊買ってみた。 なかなか面白そう。 Zentangle というサイトによると、 The Zentangle Method is an easy-to-learn, relaxing, and fun way to create beautiful images by drawing structured patterns. Almost anyone can use it to create beautiful images. It increases focus and creativity, provides artistic satisfaction along with an increased sense of personal well being. 簡単に覚えられて、楽しくて、リラックスしながら美しいイメージをつくることができる方法だと説明されている。集中力や創造性を増して、健康でハッピーな感覚をもたらしてくれるんだという。瞑想的な効果があるらしい。描く瞑想と言ってもよい。 zenは禅からきてるのかな。tangleは、もつれるとかからみあうといった意味合い。禅的にからみあうということか。 しかしどっちかというと禅というよりは密教系のごちゃごちゃ感がある。 以前、アウトサイダーアート系のワークショップに参加したときに、こんなふうに単純な幾何学模様をたくさん繰り返し描いていくというワークをしたことがある。 臨床場面では「常同的行為」などと言われるけれども、たしかに同じことを繰り返していると生理的に安心するものだと感じた。マンダラっぽいところもある。 長電話しているときに、気がつくとメモ帳にこんな図柄を描いていることもある。 ユングがマンダラとか夢のイメージなどを描いていたときも、こんな感じだったんだろうか。

認知症スクリーニング検査 The Rapid Dementia Screening Test日本語版

認知症のスクリーニング検査である The Rapid Dementia Screening Test日本語版について調べた。 一般的にはHDS-RやMMSEが用いられることが多いが、より短時間で実施でき、より日常生活場面に近い課題であるため、被験者からの受け入れがよいといった特徴をもっているよう。 認知症スクリーニング検査 the Rapid Dementia Screening Test日本語版の有用性 http://www.daiwa-grp.jp/dsh/results/32/pdf/04.pdf によると、 短時間で施行できる 患者の負担にならず受け入れやすい 採点が簡単 文化、言語、教育にあまり影響を受けない 評者間信頼性および再検査信頼性が高い 併存妥当性および予測妥当性が高い という理想的な認知症スクリーニング検査として開発されたとのこと。MMSEとの相関は0.7と高い。 実際の問題は次の通り。 The Rapid Dementia Screening Test日本語版 問1 スーパーやコンビニで売っているものの名前をできるだけたくさん挙げてください。(制限時間1分) 問2 次のアラビア数字を漢数字に、漢数字をアラビア数字に変換してください。 ・269 ・4051 ・六百八十一 ・二千二十七 数字についてはいくつかのバージョンがあるようだ。問題は outlandos d'amour  というブログの記事を参考にさせてもらった。 採点 問1 14以上   8点 11~13  6点 8~10 4点 5~7 2点 4以下 0点 問2 各1点 判定 上記論文によると、 カットオフポイントを7/8 に設定したとき,感度73.3,特異性88.2,有効度81.5 であり,スクリーニング検査として一定の有用性があると考えられた。 とのことだった。7点以下の場合には認知機能の低下が疑われる。4点以下のとき、陽性的中率はほぼ100%となり認知症が強く疑われるとのことらしい。 スーパーマーケット課題については、健常者群の平均は17.3±6.6、認知症群の平均は8.4±5.3とのこと。 保健事業に参加する地域在住高齢者へ行った認知症スクリーニング...

フェレンツィの『臨床日記』をめぐって

The American Journal of Psychoanalysis Volume 75, Issue 1 (March 2015) Second Special Issue: Sincerity and Freedom London Conference Inspired by Ferenczi's Clinical Diary http://www.palgrave-journals.com/ajp/journal/v75/n1/index.html ということで、フェレンツィの『臨床日記』が特集されているようだ。 (Ferenczi Sándor, 1873-1933) タイトルとアブストラクトだけナナメヨミして読んだつもりになってみようという趣旨のメモ。 DECODING FERENCZI’S CLINICAL DIARY: BIOGRAPHICAL NOTES B William Brennan 『臨床日記』には、多くの暗号や略語が使われている。“Dm.”がクララ・トンプソンを、“RN”がエリザベス・セバンを指すことなどは明らかになっているが、ほとんどは秘密のままとなっている。そのあたりを探ってみよう、というストーリーらしい。 THWARTING THE PSYCHOANALYTIC DETECTIVES: DEFENDING THE SEVERN LEGACY Christopher Fortune 1993年に『Sandor Ferencziの遺産』という本が出版されたそう。その本では“RN”の事例でフェレンツィが行なったラディカルな実験が取り上げられている。この本の出版から20年経った今、RNは精神分析史で最も重要な患者の一人でありつづけている。というわけで論文の著者はRNについて「探偵」のようにいろいろ調べたということのよう。エリザベス・セバンの娘さんにも会ったと。 このあたりで、『臨床日記』を本棚から探してぱらぱらめくってみた。読み返すのはずいぶんひさしぶりだ。 症例(R.N)は「進行性分裂病」と記されている。幼少期の性的虐待のケースだった。 生きていたくないという願望をもっとも内奥にもちながら、暗示の影響でふつうの学童としての存在が続いていく。この状態で、精神活動が半分鈍っ...

近代以前の心理学

“心理学には長い過去があるが、その歴史はきわめて短い” ヘルマン・エビングハウス 古代ギリシャの哲学者たちは、「プシュケー」(psyche)についてさまざまな考察を行なった。プシュケーとは、「魂」という意味の言葉で、Psychology(心理学)は、psycheとlogos(言葉、論理)から成り立っている。 ヒポクラテス「聖なる病いではなく、脳の病気」 ヒポクラテス(B.C.460頃–370頃。ずいぶん長生きだ)は、医学を迷信や呪術と区別し、観察や臨床を重視する経験科学としての医学の礎を築いた。ソクラテスとほぼ同時代の人物である。医師の倫理について述べた「ヒポクラテスの誓い」は、現代の医療倫理にも通じるものだ。 ヒポクラテス以前に、てんかんは「聖なる病い」と考えられてきた。てんかん発作は神々からのメッセージだととらえられてきたのである。その他の病気も、だいたい「神々の怒り」の表れと考えられることが多かった。特に精神的な病いは、「神聖病」と考えられていた。ヒポクラテスは「てんかんは脳の病気」と見なした。また、世転びや悲しみ、不安、考える、見る、聞くといった感情や五感の働き、さらには狂気なども「脳」に由来すると考えていたという。非常に合理的で、現代にも通じる脳理解をしていたといえる。 環境と健康の関係についても、合理的な視点を持っていた。 健康にとってよい風とよくない風については上述した。私は次に水について ─ 病気をおこす水,健康に大変よい水,そして水がもたらす害について ─ 述べてみたい。水の健康に及ぼす影響は非常に大きいからである。(ヒポクラテス「空気・水・場所について」) プラトンの魂の三分説 プラトン(B.C.427-347。同じく長寿)は『国家』のなかで人間の魂を3つに区分した。 理知(ロゴス) 気概(テュモス) 欲望(エピテュメーテース) の3つである。 気概(テュモス)とは、困難に立ち向かう意思や勇気を表す言葉だ。プラトンは、この魂の三分説を、社会にも当てはめた。社会において理性を司るのが哲人、気概を司るのが武人、欲望を司るのが経済活動に従事する庶民だという。 心を3つに分けるというアイデアは、たとえば知情意とか、フロイトの「自我、超自我、エス」などにも共通している。 アリス...

Bloggerでサイトマップを作ってウェブマスターツールに登録する

Bloggerでサイトマップを作ってウェブマスターツールに登録する手順の備忘録。 サイトマップ作成 http://***.blogspot.jp/sitemap.xml ルートURLの後ろに/sitemap.xmlをつけるとサイトマップができる。 ***には個別のアドレスが入る。 googleのウェブマスターツールに登録する http://www.google.com/webmasters/ からログイン。 (1)右上の「サイトを追加」で、サイトを追加。 このときは、 http://***.blogspot.jp/ を入れる。 (2)所有者の確認 Bloggerの場合はgoogle analyticsのトラッキングコードを登録しておけばいいようだ。 (3)ダッシュボードからsitemapを送信 http://***.blogspot.jp/sitemap.xml を登録する。 Google ウェブマスター ツール 登録マニュアル を参考にした。

振り込め詐欺、高次脳機能、騙されやすさ

振り込め詐欺の被害額 2014年の振り込め詐欺の被害は、 174億円にも昇ったのだそうだ (金融商品に関連した詐欺なども 含んだ特殊詐欺の総額は 559億円)。 特殊詐欺、昨年559億円=5年連続増、最悪を更新-高齢者79%・警察庁 なんであんなにたくさんの高齢者が、いとも簡単に騙されてしまうのだろうか? 心理学研究にこのテーマに関連した論文が掲載されていたのでぱらぱらと読んでみた。 中高年者における高次脳機能,信頼感と騙されやすさの関連 高次脳機能とは、知覚や記憶、学習、思考、判断といった認知過程を遂行するための心(あるいは脳)の機能を意味している。 「思考」や「判断」が低下していたら、それだけ騙される可能性も高まるだろうし、「記憶」や「学習」が衰えていると、「これは例のオレオレ詐欺だ」と思いつきにくいかもしれない。 Mario Mancuso 高次脳機能と信頼感、騙されやすさの関係 論文では3つの課題が挙げられている。 中高年者における高次脳機能と騙されやすさとの関連 高齢者の信頼感と騙されやすさとの関連 中高年者の高次脳機能と信頼感との関連 高次脳機能はNU-CAB( Nagoya University Cognitive Assessment Battery)という神経心理学的検査を使ったとのこと。信頼感の査定には、成人版信頼感尺度(天貝,1997)という尺度が用いられている。 それぞれ、次のような結果。 年齢や高次脳機能と騙された経験や騙されやすさに関する自己評価に有意な相関関係はみられなかった。それゆえ,年齢や高次脳機能と騙されやすさとの直接的な関連性は低いと考えられる。  信頼感の下位尺度のうち不信の高さと騙された経験や,騙されやすさの自己評定の高さは正の相関関係にあることが示された。また,騙された経験がある人はそうでない人よりも不信が強く,自らを騙されやすいと感じている人はそうでない人よりも不信が強かった。 他者信頼が高いほど高次脳機能課題の成績も良好で,不信が高いほど高次脳機能課題の成績も悪いことが示された。 高齢だから騙されやすい、というわけではないけれども、高次脳機能が低下していると、他者との関係がうまくいかずに不信感を抱きやすいとい...

ウィルヘルム・ヴント『心理学入門』1

AN INTRODUCTION TO PSYCHOLOGY BY WILHELM WUNDT PROFESSOR OF PHILOSOPHY IN THE UNIVERSITY OF LEIPSIC http://www.gutenberg.org/files/46677/46677-h/46677-h.htm の序文を読んでみた。Project Gutenbergから。 『心理学入門』 ウィルヘルム・ヴント ライプツィヒ大学哲学教授 著者による序文 この心理学入門が意図しているのは、心理学の科学的あるいは哲学的概念について議論することではないし、心理学の研究とその結果を概観することでもない。この小さな本で試みるのは、現代の実験心理学の基礎となる原則的な考え方を読者に紹介するということだ。テーマを徹底的に研究するために必要な多くの事実や方法については除外しよう。実験的な方法と結果についての言及をまったく省くのは、現代では不可能だ。しかし、私たちは新しい心理学の基礎的な原理を理解するために、最も重要な結果のごくいくつかを考察する必要があるだろう。この心理学の方法の特徴を知るためには、実験の参照をすべて省略することは不可能だろうが、こうした実験を実施するために依拠しているいくぶん複雑な実験器具のことをこまごま述べることはやめておこう。新しい心理学についてより全体を知りたい読者には私の『心理学概要』を紹介しよう。そこにはテーマに関して必要な参考文献も含まれている。 --- 以下は章ごとのタイトルと概要だけ。 CHAPTER I CONSCIOUSNESS AND ATTENTION 意識と注意 心理学とは意識過程の記述である-メトロノーム-意識のリズミカルな傾向-意識の範囲-意識の閾値-固着点と意識野-注意の焦点-注意の範囲-理解と統覚 CHAPTER II THE ELEMENTS OF CONSCIOUSNESS 意識の要素 心的要素と合成-感覚と観念-記憶心象と知覚-感覚の質と強度-感情-感覚と感情の違い-感情の三つのペア-情動プロセス-感情と気分-意思プロセス-動機-本能、自発性、判別可能な行動-感情の質-感情と統覚 CHAPTER III ASSOCIA...

Bloggerの行間をあけるには

Bloggerの行間が詰まりすぎて見にくいのでどうにかしたいと思ったのだけれど、ダッシュボードでは変更できないようだった。 ちょっと調べて解決したので、備忘録として残しておく。 Bloggerの行間をあけるには ブログ管理画面から、テンプレートを選択。 「カスタマイズ」というボタンをクリックすると、 「Bloggerテンプレートデザイナー」に入ることができる。 「上級者向け」のところの 「カスタムCSSを追加」で、 .post-body {  line-height: 1.7; } と記入して、「ブログに適用」を押す。 行間を1.7としたけれど、ここは適当に調整可能。 行間はフォントの70%(0.7文字分)くらいが読みやすいようだ。狭すぎると文字の圧迫感が強くなって読みにくい。開きすぎるとぼやけてしまう。 文字の間の間隔も、デフォルトではだいたいちょっと狭いようなので、心持ち広げると読みやすいのかもしれない。 読字障害(ディスレクシア)と読みやすさ 行間が詰まっていたり、文字のサイズが適切でなかったりすると、確かに文章が頭に入ってこない。読字障害(ディスレクシア)の人たちの目に写る文字の読みにくさを表現したものがあった。 ディスレクシアの教師として生きること

神話的世界と魂の心理学

心理学史をざっくりと「魂から心へ」という流れで。 以下、覚書。 Lascauxの洞窟壁画 Lascauxの洞窟壁画は15,000年前の旧石器時代後期のクロマニョン人によって描かれたと考えられている。ヒトの心は「今・ここ」ではない「いつか・どこか」を思い浮かべる能力を発展させた。イメージする力や意味を考える能力によって、ヒトは世界を「二重に」捉えるようになったということができるだろう。物理的な環境世界と、それに重なる(あるいはそこから離れた)イメージの世界である。洞窟壁画もまた、ヒトの心が生み出したイメージ世界を表すために描かれたと考えられる。 点のラインとオオツノ鹿 有名なシャーマンと思われる男の絵。ラスコーの洞窟壁画で唯一の人間像だそうだ。鳥のようなとがった顔をした男は、バイソンの前に横たわっている。バイソンの身体には槍が貫通しており、腹からは腸がはみ出している。男は、狩りに失敗してバイソンに殺されたのだろうか。それとも、仕留めたバイソンのスピリットを天に送るための儀礼などを行っているのだろうか。男の隣にある鳥のついた棒は、何らかの儀礼に用いられたものと考えられているようだ。 ラスコーの洞窟壁画を紹介した動画。 ヒトは、どのような目的をもって洞窟壁画を描いたのか。また、その背景にはどんな世界観や動物観を持っていたのか。 デヴィッド・ルイス=ウィリアムズ『洞窟のなかの心』港千尋訳、紀伊国屋書店 という本に、このあたりのことが詳しく記されていた。芸術の起源とされているラスコーやアルタミラなどの洞窟壁画は、数万年前に突如誕生した。芸術はなぜ必要だったのか? 心のどんな機能が芸術として表現されたのか?  訳者の港千尋さんと中沢新一さんの対談の記録には、こんなふうに書かれている。   『洞窟のなかの心』によれば、壁画は外界のスケッチではなく、脳の中のプロセス(過程)が外在化して岩の上に浮上したもの。そのため壁画には具象的な動物絵、抽象的な模様のほか、人間が動物に変容する図像が洞窟の奥でたびたび見られます。人間の心の深い層には、意識の変容によって人間が動物に生成変化してゆく領域があるそうで、洞窟と人間の心の対応関係が伺えますね。 『野生の科学』で「喩」と呼んでいる...

脳をハッキングして神と出会う。短編映画『The Brain Hack』

viemoで興味深い短編映画を観たので紹介します。 『The Brain Hack』というタイトルで、2人の大学生が脳をハックして神体験を誘発するという映像を開発した、というストーリーの20分ほどの短編映画です。 公式サイトは以下。 http://www.thebrainhack.com/ WINNER - Best Short - Best Music - Best Actor - The British Horror Film Festival WINNER - Best Director - Los Angeles Short Film Festival HONORABLE MENTION - Miami International Science Fiction Film Festival OFFICIAL SELECTION - London Sci-Fi Film Festival, Boston Science Fiction Film Festival, Big Apple Film Festival, LA Indie Film Fest, Minneapolis Underground Film Festival, British Shorts Berlin. とたくさん賞を受賞しているみたいですね。 字幕が英語だったんで理解は適当ですが、映画科の学生と神経科学を専攻している学生が手を組んで、誰でも簡単に宗教的な体験を得ることのような映像作品を作ろうとします。 すると、謎の組織に狙われるようになり…統合失調症的な妄想なのか、と思わせつつも、最後まで観ると、なるほどというような仕掛けもあって楽しめます。 ただし、 **DANGER** View with extreme caution. 「危険。十分に注意して視聴してください」とのことです。 目がチカチカする場面がありますし、神さまが現れても大変かもしれないですしね。