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4月, 2025の投稿を表示しています

【夢占いはなぜ信じられるのか?】科学で読み解く「予知夢」と文化のつながり——最新研究が明かす“夢と超常信仰”の心理

  はじめに:なぜ人は「夢」に意味を求めるのか? 「変な夢を見た……もしかして何かのサイン?」 そんなふうに思ったことはありませんか? 古代から人類は夢に特別な力を見出してきました。夢占い(oneiromancy)は、その代表例です。預言者ヨセフから、戦国武将の夢判断まで、夢を“神のお告げ”と見る文化は世界中にあります。 けれど、なぜ私たちは夢を単なる脳のランダムな活動として切り捨てず、「意味がある」と感じるのでしょうか? その疑問に心理学的・文化進化論的な視点から迫ったのが、今回紹介する研究論文です。 論文の概要:夢のどんな内容が「意味あり」と思われるのか? 2023年に発表されたこの論文( Gauging oneiromancy: The cognition of dream content and cultural transmission of (supernatural) divination .)は、 夢に「予言的意味」があると感じられる仕組み について、被験者の夢記述と信念の傾向を分析することで解明を試みたものです。 キーワードは以下のとおり: Oneiromancy(夢占い) Cultural transmission(文化の伝播) Supernatural belief(超常的信念) Omitted agency(自己主体性の省略) Nightmares(悪夢)と伝達性 本研究では、「どんな夢が他者と共有されやすく、どのような夢が“神秘的”に見なされやすいのか?」を分析しています。 【CARDD理論】夢の“超常性”を高める4要素とは? 本論文の中心には、著者らが提唱する CARDDモデル (Cognitive Apparatus for Recognizing Dream Divination)があります。 以下の4つの特徴が組み合わさると、夢は「ただの夢」ではなく、「意味ある夢」に認識されやすくなるという仮説です: 要素 内容 C - Communication 夢が他者と共有されやすいか A - Atypicality 現実では起こり得ない印象があるか R - Relevance 自分にとって重要・感情的か D - Detail 具体性が高いか D - Divina...

幻聴は“病”じゃない?「聴声」という言葉が変えた当事者の世界|ヒアリング・ヴォイシズ運動の現在地

  はじめに:その「声」は本当に“幻”ですか? 「誰かに悪口を言われている気がする」「部屋に誰もいないのに、名前を呼ばれる」——そんな体験があったら、あなたはどうしますか? 多くの人はそれを「幻聴」と呼び、病院へ行くことをすすめるかもしれません。けれども、声が聴こえることは必ずしも“病気の証拠”ではない。そう語る運動があるのをご存じでしょうか。 本記事では、日本におけるヒアリング・ヴォイシズ運動(Hearing Voices Movement)の受容と展開を紹介した中恵真理子氏の論文「日本におけるヒアリング・ヴォイシズ運動の受容」(2021)をもとに、「聴声」という新しい概念の意義とその変遷を読み解いていきます。 「ヒアリング・ヴォイシズ運動」とは? ヒアリング・ヴォイシズ(以下HV)運動は、1980年代後半にオランダで生まれた精神医療改革のムーブメントです。 精神疾患とされてきた“幻聴”を、異常な症状ではなく「意味のある個人的体験」として捉え直し、当事者の語りを中心に据えようというこの運動は、今では世界各地に広がり、数千のピアサポートグループが活動しています。 日本では、臨床心理学者の佐藤和喜雄氏がこの運動を紹介し、1990年代から「ヒアリング・ヴォイシズ研究会」を中心に地道に広がってきました。 「幻聴」ではなく「聴声」——言葉が変える世界の見方 「幻」とは何か?「声」を中立的に扱うための言葉 佐藤氏は、HV運動を日本に紹介する際、「幻聴(auditory hallucination)」という語ではなく「聴声」という新たな言葉を生み出しました。これは、「声が聴こえる」という現象を、ただの症状や異常としてではなく、文化的・個人的体験として尊重するための翻訳上の工夫でした。 たとえば、「いたこ」や「巫女」が死者の声を聴くという文化的文脈では、誰もそれを“病気”とは呼びません。つまり「聴こえる」こと自体を否定せず、そこにある意味やメッセージに耳を傾けようというのが、HV運動のスタンスです。 「ルビンの盃」にたとえた“見方の転換” 佐藤氏は後に、この運動の意義を「ルビンの盃(Rubin's vase)」という心理学の図像にたとえました。 白い背景に黒い二つの横顔を見れば“人物の顔”に見え、 黒い部分を背景と見れば“盃”が...

【最新研究】トラウマと統合失調症——その関係と治療の最前線とは?|EMDR・CBT・AVATARの効果に迫る

  はじめに:「トラウマ」と「統合失調症」は別物ではない? 「トラウマを抱えた人が幻覚や妄想を経験するのは、偶然ではない」 もしそう言われたら、あなたはどう思いますか? 精神疾患といえば、かつては脳の“遺伝的な不具合”と捉えられていました。しかし近年、心理学と神経科学の進展により、「トラウマ(心的外傷)」が統合失調症などの精神病(psychosis)に深く関わっているという視点が注目されています。 イギリスのAmy Hardyらによる論文「Trauma therapies for psychosis: A state‐of‐the‐art review」(2023)は、まさにこのテーマを掘り下げたレビューです。本記事では、その内容を紹介しながら、「幻覚」「妄想」などの症状に苦しむ人々への新しいアプローチについて解説していきます。 トラウマは精神病の“引き金”になり得る? 研究はこう述べています: 子ども時代の虐待やいじめなどの「対人関係トラウマ」が、統合失調症の発症や重症度と相関する。 PTSD(心的外傷後ストレス障害)やその他のトラウマ関連障害は、精神病を抱える人において一般人口よりも高い頻度で見られる。 一部の人にとっては、統合失調症そのものの症状(幻覚、入院体験など)がトラウマ体験になる。 こうした知見を踏まえ、心理療法の分野では「トラウマに基づいた統合失調症ケア(trauma-informed psychosis care)」が急速に広まりつつあります。 【注目療法1】EMDR for Psychosis(EMDRp) EMDRとは? 「EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)」は、元々PTSD治療に特化した心理療法です。患者がトラウマ記憶を思い出しながら左右に目を動かすことで、記憶の“再処理”を促す手法です。 統合失調症への応用:EMDRp 近年では、EMDRを精神病に適用した「EMDRp(EMDR for psychosis)」の試みが始まっています。以下の3つの方法で実施されます: 直接法 :幻覚や妄想が始まった当時の記憶にアプローチ。 間接法 :幻覚や妄想の背景にあるコアビリーフ(例:「自分は無価値」)を扱う。 フラッシュフォワード法 :未来に対する恐怖や空想的イメージを対象...

恋人はなぜ「あの人」なのか?——恋愛脳とパートナー選びの科学

  はじめに:恋の始まりに科学が迫る時代 「なぜ、あの人が好きなんだろう?」——そんな疑問を抱いたことはありませんか? 一目惚れ、強い執着、忘れられない人……私たちは恋をするとき、しばしば「理屈では説明できない何か」に突き動かされます。けれど今、心理学と脳科学がその“謎”に迫りつつあります。 本記事では、京都大学の上田竜平氏による解説論文「我々はどのようにして『恋人』を選ぶか?」(『認知科学』第31巻第4号, 2024年)をもとに、恋愛パートナー選択に関する最前線の研究をわかりやすく紹介します。 恋愛感情は「脳のご褒美システム」が関係している? 恋愛初期の「熱愛状態(passionate love)」は、単なる気の迷いではありません。 キーワードは“報酬系” fMRIによる脳画像研究では、恋人の顔を見ると「尾状核(caudate)」や「腹側被蓋野(VTA)」が活性化することが分かっています。 これらは“報酬系”と呼ばれる、快楽やモチベーションに関わる脳領域です。 これはつまり、「恋をすると脳が“報酬”を感じている」状態だということ。ドーパミンが分泌され、まるで依存症のように相手を求める状態になるのです。 動物の「つがい脳」にヒントがあった 面白いのは、恋愛感情の研究がヒトだけでなく「プレーリーハタネズミ」という動物でも行われてきた点です。 このネズミは一夫一妻制で、一度パートナーを得ると長く関係を維持します。研究によると、 D2型ドーパミン受容体 が活性化 → パートナー選択を促す D1型受容体 が活性化 → 他の相手への興味を抑える このシステムが「この人しかいない」と思わせる脳内スイッチなのです。 「恋のフィルター」は顔の魅力から始まる? 「顔が好みだから好きになったのか?」「好きだから顔がよく見えるのか?」この永遠のテーマにも科学が答えを出し始めています。 魅力的な顔 → 脳の報酬系が反応 実験では、好みの異性の顔を見ると「側坐核(NAcc)」や「眼窩前頭皮質(OFC)」が活性化。特にNAccは“即時の直感的な反応”を司る一方、OFCは“じっくりした価値判断”に関係しているとされています。 つまり、顔の魅力は“無意識に”私たちの恋愛レーダーを動かしているのです。 特別な相手は「脳...

【夢占いより科学的?】悪夢のつらさは「非合理な信念」でやわらぐのか?——QOLとの関係を心理学が検証!

  はじめに:悪夢で人生がつらくなる?見えない“痛み”と向き合う心理学研究 毎朝、悪夢の余韻で目覚めが悪い——そんな経験、誰にでもあるのではないでしょうか。単なる“怖い夢”と片づけられがちですが、実は、悪夢は私たちのメンタルヘルスに深刻な影響を与えることが近年の心理学研究で明らかになっています。 今回は、東海学院大学の紀要に掲載された注目の論文「悪夢の苦痛度とQOLの関係における非合理現象信奉傾向の調整効果」(山岸紗奈・大浦真一、2024年)を取り上げ、科学と信念のはざまで私たちのこころがどう影響を受けるのかをご紹介します。 結論を先取り:非合理な信念が“心の支え”になることも? この研究でわかったのは、悪夢に対処できないと感じている人でも、「お守り」「お参り」「初詣」といった“生活慣習”を信じている人のほうが、QOL(生活の質)を高く保てる傾向があるということ。 つまり、非合理的だとされる信念や行動が、ある種の“緩衝材”として働いている可能性があるのです。 【研究の背景】悪夢は、見て終わりではない 「悪夢」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、怖い夢の一過性の印象でしょう。 しかし、研究によると、悪夢は PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状の一部としても知られており、反復的に苦痛な夢を見ることで、生活全体に影響を与えかねません。 小児:6.7~11.3% 一般人口:3.5~8.0% 精神疾患のある成人:15.6~66.7% これだけの人が、悪夢に悩まされているという報告もあります(Gieselmann et al., 2019)。 【研究のポイント】「非合理現象信奉傾向」が鍵? 本研究では、220名の大学生を対象に、以下の3つの指標をもとに調査が行われました。 悪夢の苦痛度(NDQ-J) 非合理現象信奉傾向(丹治・青木による尺度) QOL(生活の質:MQL-10) 非合理現象信奉とは、「超能力」「お守り」「星占い」など、科学的根拠の乏しい現象を信じる傾向のことを指します。研究ではこれを2つに分類しています。 超常現象信奉:幽霊や超能力など 生活慣習信奉:お守りや縁起担ぎ、神社へのお参りなど 【主な結果】信じる人は救われる?信じない人は苦しむ? ポイント①:悪...

不安な時代に「占い」を選ぶ心理とは?——科学と信念の間でゆれる私たちの心

毎朝のテレビや雑誌の片隅にある「今日の運勢」、初詣で引くおみくじ、スマホに届く“ラッキーアイテム”のお知らせ——こうした占いやおまじないは、私たちの暮らしにすっかり馴染んでいます。けれど、ふと考えてみると、「これって信じていいの?」という疑問も湧いてきませんか? 県立広島大学の研究者たちによる最新の心理学研究「占いやおまじないに対する態度と情報処理や制御焦点のスタイルとの関連性」(地域創生学部紀要 第3号)では、まさにこの問いに迫っています。 占いやおまじない、なぜ惹かれる? 研究ではまず、占いやおまじないに対する人々の「態度」を多面的に捉える尺度を開発しました。その結果、人々の態度は以下の5つに分類できるとされました。 効果を感じた・信じている(信奉) 日常生活に取り入れている(活用) 興味・関心がある 民族宗教的儀礼への共感 懐疑的な見方をしている つまり、「面白いから見るけど、信じてない」や「本当に効くと思っている」「興味はあるけど試したことはない」など、多様なスタンスがあることがわかったのです。 科学的に見れば「非合理」——でも、それだけじゃない もちろん、科学者からすれば、占いに明確な根拠はありません。実際、多くの論文が「非合理的信念」として占いやおまじないを批判してきました。しかし、研究者たちは、そこにこそ人間の心の奥深さがあると指摘します。 例えば、人は不安を抱えているとき、未知の未来を少しでもコントロールしたくなる。その時に、合理的な判断力よりも、「直感」や「期待」が勝る場面があるのです。こうした心理傾向は「思考の二重過程理論」や「制御焦点理論」といった心理学の理論で説明されています。 「直感的な思考」が強い人は、占いを信じやすい傾向 「予防焦点」(悪い結果を避けたい志向)が強い人ほど、おまじないを利用しやすい 都合のいいときだけ信じる?——実は適応的な行動かも 興味深いのは、「信じたいことだけ信じる」という人が意外と多いということ。調査では、占いを「都合のいいときだけ信じる」と答えた人が全体の4割を超えていました。 それって矛盾しているように思えますが、研究では「短期的なメンタルの安定にはむしろ有効な行動」として捉えられています。いわゆる「占いに背中を押してもらう」ことで、ポジ...

基本的な帰属の誤りあるいはレイク・ウォビゴン(Lake Wobegon)効果〜「自分は特別」という心理

レイク・ウォビゴン効果とは? 「自分はほかの人よりも優れている」と、無意識のうちに思い込んでしまうことはありませんか? このような心理傾向を、心理学では「レイク・ウォビゴン効果(Lake Wobegon effect)」と呼びます。 これは、 自分を過大評価する認知バイアス の一つで、誰もが陥りやすい思考のクセです。 「レイク・ウォビゴン村」とは? この効果の名前は、アメリカの作家ガリソン・ケイラーが創作した架空の村「レイク・ウォビゴン」から取られています。 この村では、全ての住民が平均以上に賢く、子どもたちはみな優秀で、美男美女ばかり――。 当然、「全員が平均以上」なんて統計的にありえません。 それにもかかわらず、 多くの人が「自分は平均よりも上」と感じている のです。 レイク・ウォビゴン効果の具体例|「自分はそこそこ優秀」と思ってしまう心理  1. スウェーデン運転者調査(Svenson, 1981) スウェーデンの心理学者スヴェンソンによる有名な調査があります。 スウェーデンとアメリカの運転者に「自分の運転技術は平均と比べてどうか?」と尋ねたところ、 90%以上の人が「自分は平均以上」と回答 。 冷静に考えれば、全体の半数しか「平均以上」にはなりえないはずですが、 ほとんどの人が自分は“上位側”にいると思い込んでいた のです。  2. 大学教員の自己評価(Cross, 1977) アメリカの大学で行われた調査では、 教員の94%が「自分は平均的な教員よりも優れている」と自己評価 しました。 特に「教育スキル」「指導力」など、主観的な評価が入りやすい分野でこの傾向は強く現れます。 実際には、全員が“平均以上”であることは統計的にありえません。 にもかかわらず、 自分だけは“ちゃんとやっている”と信じている のが人間の心理です。  3. 社会的魅力に関する学生調査 ある大学で、学生に「あなたは人付き合いにおいて平均以上だと思いますか?」と尋ねたところ、 85%の学生が「YES」と答えました 。 しかし、当然ながらこの回答分布自体が「平均」の定義を超えてしまっています。 これはまさに**「みんなが平均以上と思い込んでいる、レイク・ウォビゴン村状態」**の再現といえるでしょう。  4. 医学...