タッピングで花粉症対策、そして思考場療法(TFT)をめぐる論争について

公開日: 3/07/2016 心理療法


春らしいぽかぽかした天気になってきて、散歩日和でしたが、せっかくいい季節なのに花粉症が始まってつらくてたまりません。

涙は出るし、くしゃみ鼻水鼻づまりで、頭がずーんと重苦しい。人の話をちゃんと聞けなくなるのは、カウンセラーにとって致命的ではなかろうか。「ふむふむ。苦しいのですね。はっくしょーん」なんて応答は、あまりよくない気がしますが、こればかりはしかたがない。

花粉症、アレルギー性鼻炎の心理学
でも、花粉症が生活の室(Quality of Life)に大きな影響を与えることを紹介しました。外に出るのが嫌になるし、仕事にだって集中できません。

かといって薬を飲むと眠くなることが多いし、どうしたものかと鼻うがいやら、ツボ押しやらを試しているところです。そんなこんなしていてGoogleで検索していたら、花粉症のタッピング(TFTとかEFTとか)を紹介したサイトがあったので、半信半疑ながら試してみたのです。


タッピングで花粉症対策

TFTというのは「思考場療法」と訳されていて、アメリカの心理学者ロジャー・キャラハンが開発したセラピーの手法です。EFTというのは、TFTのヴァリアントです。

花粉症、英語ではhay feverというのですね。
hayは、干し草を意味する言葉で、辞書を引くとhay feverは「枯草熱(コソウネツ)」「花粉症」ということになるらしい。

hay fever tappingで検索すると、EFT Tapping Cure HayFever Allergies & Congestion!(花粉症アレルギーと鼻づまりをEFTタッピングで治す)なんて動画がありました。指定されたポイントを叩きながら、「私は安全で守られている」といったようなおまじない?を唱えるのがなんだか怪しい。

で、実際にとんとん叩いてみたら、しばらくのあいだ鼻が通って楽になったような気がします。意外と効果あるんじゃないかと期待したのですが、ちょっとするとまたくしゃみがとまらなくなりました。

ツボ押しと同じで、血行がよくなってちょっと楽になるくらいの効果はあるのかもしれません。あるいはプラセボ効果も影響しているでしょうか。

花粉症で苦しんでいる身としては、プラセボでもツボ効果でも、よくなればなんでもいいのです。

ただ、タッピングする順番(アルゴリズムと呼ばれています)は、どうも大した根拠はないんじゃないかと感じます。いや、それこそが秘訣だ、と言う人もいるのでしょうけれど。

思考場療法(TFT)をめぐる論争

この手のエネルギーセラピーの本を何冊か読んだことはあるのですが、著者たちが主張しているほど、科学的なエビデンスはなさそうです。

いや、ヨガや気功や仏教の瞑想だって、心理療法に取り入れられている昨今なので、タッピングだって「あり」だと思うのです。でも、プレゼンのしかたが、情報商材や疑似科学っぽいと感じさせるようなところがあるので、ずいぶん批判を受けています。

Wikipediaの思考場療法のページに、アメリカでの批判や論争について詳しく記載されていました(英語版TFTのページとほぼ同じ構成なので、誰かが翻訳したのでしょう)。
キャラハンは、彼の療法をより発展させたボイステクノロジー(Voice Thechnology、VT)は、ある非公表の「テクノロジー」を用いることで、電話越しに行うことができると断言している。高度なVTの講習はキャラハンから受けることができる。キャラハンのウェブサイトに掲載されている講習費用は10万ドルである。受講者は、「VTの背景にある企業秘密を公開しない」とする秘密保持契約書にサインしなければならない。
なんて書かれていました。うわ、10万ドルだって。

10万ドルあったら花粉のない国に引っ越します。

Can We Really Tap Our Problems Away? A Critical Analysis of Thought Field Therapy

「私たちは自分の問題を本当にタッピングで放り出すことができるの? 思考場療法の批判的分析」

では、
Thought Field Therapy is marketed as an extraordinarily fast and effective body-tapping treatment for a number of psychological problems. However, it lacks even basic empirical support and exhibits many of the trappings of a pseudoscience.
とのことで、TFTは「心理療法における疑似科学のひとつ」と断じられていました(EMDRも批判されています)。

先のWikipediaには2001年の“Journal of Clinical Psychology”誌で、TFTが特集されていると書かれていました。
2001年に、Journal of Clinical Psychologyは、キャラハンの選んだTFTに関する論文5本[15][16][17][18][19]を「査読なし」に載せるという前例のないことに同意した。査読の代わりに、批判の文章が各論文に並べて掲載された[20][21][22]。批判派は、5つの研究それぞれに深刻な欠陥があり、そのために説明不能なものになっていることに同意した。彼らは、成功した事例のみを選び出すことによるバイアス、多種多様な問題を対象にしていること、対照群を適切に用いていないこと、プラセボ効果・需要特性[訳語疑問点]・平均への回帰をコントロールできていないこと、評価のための適切な測定値がないこと、有効性の測定値として、心拍変動性以外には主観的障害単位しか利用していないこと、背景を無視して心拍変動性を不適切に用いていること、信憑性のある理論がないことを、欠陥として指摘している。
とのことなので、一度、その雑誌をぱらぱらめくってみようと探してみました。これですな。例によってアブストラクトだけ読んでみよう。

Journal of Clinical Psychology,October 2001,Volume 57, Issue 10

心拍変動における思考場療法のインパクト

The impact of Thought Field Therapy on heart rate variability (pages 1153–1170)
Roger J. Callahan

まずはキャラハンさんの論文。思考場療法(TFT) は心理的な問題の素早い処置のために、数分でできるとのことで、不安や抑うつ、トラウマとの関連が大きい心拍数変動(HRV)がTFTで改善するのだと主張しています。

テルトゥリアヌスのモットーとキャラハンの方法

Tertullian's motto and Callahan's method (pages 1171–1174)
Richard J. McNally

テルトゥリアヌスというのは2世紀のキリスト教神学者です。「不条理なるが故に我信ず」という言葉で知られています。「テルトゥリアヌスのモットー」も、このことを指しているのでしょうね。ようするに、キャラハンたちの主張していることは、テルトゥリアヌスの言葉のようなものだと言いたいのだと思われます。

心拍変動の上昇と下降:思考場療法についてのいくつかの臨床的発見

Raising and lowering of heart rate variability: Some clinical findings of Thought Field Therapy (pages 1175–1186)
Roger J. Callahan

再びキャラハンさんの論文。一冊の雑誌に何本も掲載されるなんて、売れっ子マンガ家みたいです。
この論文では、TFTが心拍変動を上げたり下げたりできるという臨床例が報告されているようです。アルゴリズムが効果的だとか、トキシン(毒素)の影響を反転させることができるといったことが主張されています。

心拍変動は思考場療法に効果があるだろうということにはなりません

Heart rate variability does not tap putative efficacy of Thought Field Therapy (pages 1187–1192)
John P. Kline

恣意的なケース報告から無理やりに結論出してるとか、適切なコントロール群が設定されていないとか、心拍変動の理解がそもそも間違ってるとか。
Callahan's article provides no evidence for the efficacy of TFT nor does it provide evidence for the credibility of TFT's rationale.
というわけでキャラハンの論文はTFTの効果の証明にまったくなっていないし、信頼のある理論も提供できていないと批判しています。

臨床実践における思考場療法のアウトカムを測定するものとしての心拍変動

Heart rate variability as an outcome measure for Thought Field Therapy in clinical practice (pages 1193–1206)
Monica Pignotti and Mark Steinberg

こちらはキャラハン陣営の論文。心拍変動はプラセボの影響を受けないので、思考場療法(TFT)のアウトカムを測定するのに適しているのだそうです。臨床事例を挙げて、TFTが恐怖症やトラウマ、抑うつ、疲労、ADHD、LD、強迫、摂食障害、怒り、身体的な痛みなどのさまざまな問題に適応できると主張されています。

聖杯を求めて:心拍変動と思考場療法

The search for the holy grail: Heart rate variability and Thought Field Therapy (pages 1207–1214)
James D. Herbert and Brandon A. Gaudiano

TFTは、科学的な支持が欠けているにもかからわず、ここ数年急速にひろがっているいくつかの一般的ではない心理療法のひとつだといいます。上のPignotti らは心拍変動(HRV)の変化をTFTの効果の証拠にしているけれど、重大な方法論上の欠点があると批判しています。「聖杯(holy grail)」とは、キリストが最後の晩餐で用いた杯のことで、「絶対達成できない理想、見果てぬ夢」といった意味もある言葉です。

思考場療法の臨床適応:行動医学および行動健康サービスのHMO(保健維持組織)における活用

Thought Field Therapy clinical applications: Utilization in an HMO in behavioral medicine and behavioral health services (pages 1215–1227)
Caroline Sakai, David Paperny, Marvin Mathews, Greg Tanida, Geri Boyd, Alan Simons, Charlene Yamamoto, Carolyn Mau and Lynn Nutter

キャラハン陣営。714人の患者にTFTを適用した結果、SUD(Subjective Units of Distress: 主観的不快指数)が治療前後で有意に減少したと。ケース数は多いですが、さまざまな臨床現場のいろんな患者さんが対象で、コントロールされた研究ではないようです。

Sakai らの論文はTFTの効果を示すのに適切じゃないでしょ

Sakai et al. is not an adequate demonstration of TFT effectiveness (pages 1229–1235)
Jeffrey M. Lohr

上の論文への反論。適切にコントロールされた研究でないので、いくら「よくなった」というケースをたくさん挙げても、本当にTFTが効いたのかどうだかわからないじゃないかと。

思考場療法ーコソボの悪い時をやらわげる

Thought Field Therapy—Soothing the bad moments of Kosovo (pages 1237–1240)
Carl Johnson, Mustafe Shala, Xhevdet Sejdijaj, Robert Odell and Kadengjika Dabishevci

コソボにおけるトラウマが思考場療法によって治療されたのだそうです。スウェーデンや英国、米国らいの臨床家たちがコソボに行って、重篤なトラウマを抱えた人たち105人(トラウマの数は249)を治療したところ、103人がすっかり安心したと報告したとのこと。平均5ヶ月後にフォローアップしたときにも再発は見られなかったらしい。

調査と研究のあいだ:どのように最適な方法を見つけるか? 論文「思考場療法ーコソボの悪い時をやらわげる」のレビュー

Between search and research: How to find your way around? Review of the article “Thought Field Therapy— Soothing the bad moments of Kosovo” (pages 1241–1244)
Rita Rosner

コソボの論文への反論。
この論文にTFTの効果を証明しようという意図があると仮定するならば(皮肉ですね)、呈示された情報がどれくら目的を達しているかという点で評価しなければならない。しかし、詳しい例が挙げられていないし、方法論的なお約束がちっともできてないーー標準化された診断手順だとかなんとかーーから、経験的な研究のなかで評価することができない。それにくわえて研究デザインが研究の目的に一致していない。期待効果や自然回復、他の効果的な心理療法プロセスとの比較といったコントロールがない。この研究は、TFTの効果について非常に限られたエビデンスしか提供していない。

ピア・レビューなしで新しいセラピーについて出版する際の「反響帰属」とその他のリスク

“Echo attributions” and other risks when publishing on novel therapies without peer review (pages 1245–1250)
Gerald M. Rosen and Gerald C. Davison

“Echo attributions” をどう訳したらいいのでしょう。
辞書を引くと、Echoには人の意見に流されるとか、不和雷同、模倣といった意味があるようです。
この学会誌で思考場療法の特集をしたことは、主流ではない技法をサイコロジストが学ぶ機会かもしれないが、標準的なピアレビューなしで公刊するのは、学会誌の名を落とすし、ちゃんと検証されていない方法を不適切に広めることになりやしないかという危惧が表明されています。この論文、全部読めるようです()。

思考場療法:われわれへの批判への応答と、社会科学のいくつかの古い考えの精査

Thought Field Therapy: Response to our critics and a scrutiny of some old ideas of social science (pages 1251–1260)
Roger J. Callahan

最後にまたキャラハンさんが登場して、批判へのコメントを書いていました。
思考場療法(TFT)は、一般的な社会科学における研究のガイドラインに従っていないということで批判されるけど、TFTは社会科学というよりは「ハードサイエンス」なんだよね、と言っている。

アブストラクトをナナメヨミしただけなので、いい加減な理解ですが、異種格闘技戦のようになって、かみあわないままゴングが鳴ったという感じでしょうか。

〜〜〜
代替医療のトリック』では、ホメオパシーや鍼灸、瞑想なども批判されていましたが、
「代替医療のトリック」の鍼治療に対する記述の問題点(pdf)
といった反論もあります。ちゃんとエビデンスがあるよ、という意見ですね。

科学と疑似科学の境界って、はっきり線が引けることばかりじゃないのでしょう。臨床心理学なんて、とくに境界にあるような。

明治大学コミュニケーション研究所「疑似科学とされるものの科学的評定サイト」
をあとで読んでみようと思ったので、メモしておきます。

いろいろ連想は働きますが、眠いのでこのへんで。
夜になったから花粉症は楽になりました。


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