WIREDに掲載されていた、「仮想子ども」に優しく接して「うつ」を治療するVR実験という記事を読みました。


ヴァーチャル・リアリティによってうつ病を治療するという試みのようです。
患者にはVRヘッドセットが渡され、装着すると、ヴァーチャルな身体(分身)の視点で物事を見るようになる。続いて患者たちは、ヴァーチャルな子どもに対して思いやりを表現するトレーニングを受ける。思いやりを表現されると、子どもは即座に反応して泣くのをやめる。数分後、患者の視点が子どもの視点に代わり、自分が数分前に発した、慰めるための思いやりのある言葉をかけられる。
こんなセッティングで、治療が行われるとのことで、10分ほどのシナリオを1週間の間隔をあけて3回繰り返しました。

すると、15人の患者のうち9人が、うつ病の症状が緩和されたと報告しました。

そのうち4人は実際の診察でもうつ症状が大きく改善していることが確かめられたということです。

研究者のクリス・ブルーインさんは次のように述べているとのこと。
「この実験では、子どもを慰めたあとで、慰めを表現する自分自身の言葉を自分に向けられたものとして聞くことによって、患者は間接的に自分に思いやりを示すことになります」
 せっかくなので、論文をちょっと見てみます。

Embodying self-compassion within virtual reality and its effects on patients with depression

「自己への同情をヴァーチャル・リアリティで具現化することと、それがうつ病患者に与える効果」


アブストラクト(だけ)を読むと、自己批判というのは、さまざまな精神病理に偏在していて、それはself-compassion(自分への同情心、慈悲)と葛藤している。上述のような設定で、VRによる治療セッションを実施した結果、
 In an open trial, three repetitions of this scenario led to significant reductions in depression severity and self-criticism, as well as to a significant increase in self-compassion, from baseline to 4-week follow-up. Four patients showed clinically significant improvement.
ということで、抑うつ症状の重症度と自己批判が著しく改善したそうです。

「インナー・チャイルドワーク」とか、ゲシュタルト療法のチェア・テクニックをヴァーチャル・リアリティを通じてやってみた、といった感じでしょうか。

ある面では慈悲の瞑想にも似たところがあるかもしれません。

こんな動画も見つけました。
ヴァーチャルでエンカウンター・グループみたいなことをしている。


同じくWIREDの、「他者と身体を交換できるVRマシン」(動画)も面白かったです。ラバーハンドイリュージョンの全身版みたいな装置で、男女の身体を入れ替えてしまうとか。

マンガや映画で何度も描かれてきたあのテーマがついに実現する時代がきたのですね(と感慨深く)。