【夢占いより科学的?】悪夢のつらさは「非合理な信念」でやわらぐのか?——QOLとの関係を心理学が検証!
はじめに:悪夢で人生がつらくなる?見えない“痛み”と向き合う心理学研究
毎朝、悪夢の余韻で目覚めが悪い——そんな経験、誰にでもあるのではないでしょうか。単なる“怖い夢”と片づけられがちですが、実は、悪夢は私たちのメンタルヘルスに深刻な影響を与えることが近年の心理学研究で明らかになっています。
今回は、東海学院大学の紀要に掲載された注目の論文「悪夢の苦痛度とQOLの関係における非合理現象信奉傾向の調整効果」(山岸紗奈・大浦真一、2024年)を取り上げ、科学と信念のはざまで私たちのこころがどう影響を受けるのかをご紹介します。
結論を先取り:非合理な信念が“心の支え”になることも?
この研究でわかったのは、悪夢に対処できないと感じている人でも、「お守り」「お参り」「初詣」といった“生活慣習”を信じている人のほうが、QOL(生活の質)を高く保てる傾向があるということ。
つまり、非合理的だとされる信念や行動が、ある種の“緩衝材”として働いている可能性があるのです。
【研究の背景】悪夢は、見て終わりではない
「悪夢」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、怖い夢の一過性の印象でしょう。
しかし、研究によると、悪夢は PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状の一部としても知られており、反復的に苦痛な夢を見ることで、生活全体に影響を与えかねません。
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小児:6.7~11.3%
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一般人口:3.5~8.0%
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精神疾患のある成人:15.6~66.7%
これだけの人が、悪夢に悩まされているという報告もあります(Gieselmann et al., 2019)。
【研究のポイント】「非合理現象信奉傾向」が鍵?
本研究では、220名の大学生を対象に、以下の3つの指標をもとに調査が行われました。
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悪夢の苦痛度(NDQ-J)
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非合理現象信奉傾向(丹治・青木による尺度)
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QOL(生活の質:MQL-10)
非合理現象信奉とは、「超能力」「お守り」「星占い」など、科学的根拠の乏しい現象を信じる傾向のことを指します。研究ではこれを2つに分類しています。
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超常現象信奉:幽霊や超能力など
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生活慣習信奉:お守りや縁起担ぎ、神社へのお参りなど
【主な結果】信じる人は救われる?信じない人は苦しむ?
ポイント①:悪夢の「現実への波及」がQOLを下げる
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「夢の内容が日常生活に影響している」と感じるほど、QOL(生活の質)は低下。
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覚醒時にも悪夢を引きずってしまう感覚が、精神的健康に悪影響を与える。
ポイント②:「非合理な生活慣習」はQOLを守るバッファーになる
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星占いやお守り、神社参拝を信じる人は、悪夢の苦痛とQOLの間に緩衝的な働きがある。
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特に「悪夢にうまく対処できない」と感じている人ほど、その傾向が強い。
興味深いのは、「悪夢に対処できないけど、生活慣習的な信念がある人」はQOLを保てたのに対し、「悪夢に対処できないうえ、生活慣習を信じていない人」は、QOLが大きく低下していた点です。
【なぜ?】科学的でない信念が役立つ理由
1. 安心感を与える“儀式”
非合理的な慣習は、信じることによって心理的な安定感を得やすいという利点があります。墓参りや神社参拝などは、他者との関わりを生み、心をリセットするきっかけにもなります。
2. “占いの効能”はプラセボにも通じる
信じることで効果が出る「プラセボ効果」のように、生活慣習信奉が心理的サポートとなっている可能性も考えられます。
3. 「信じてないのにやってる」人の葛藤
この研究は、「信じていない人ほど、悪夢の影響を受けやすい」という逆説的な示唆も含んでいます。科学的根拠を重視するあまり、心の逃げ場を失ってしまうのかもしれません。
【臨床応用】心理カウンセリングにどう活かせるか?
この研究が示すのは、次のような臨床的な示唆です。
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クライエントが信じる「慣習的行動」(例:神社に行く、お守りを持つ)を尊重する
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非合理な信念に対して一方的に否定せず、安心感を与える手段として理解する
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「夢が現実に影響する」という認知に対して、心理教育を通じて科学的理解を促す
現代の心理臨床において、単なる合理性だけでなく“意味づけ”や“信じる力”をどう扱うかが問われているのです。
まとめ:非合理なものに、意味がある時代へ
科学が発達した現代でも、星占いや初詣、お守りを手放せない私たち——それは“信じているから”というよりも、“信じたいから”“信じることで楽になるから”かもしれません。
本研究は、非合理的な信念が精神的健康を支える可能性を、心理学的に証明しようとした希少な試みです。単なる迷信として片づけるのではなく、生活文化としての“信じること”の力を、もう一度見直してみる価値があるのではないでしょうか。
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